[世紀の対決・・・]
HTC との特許訴訟であらわとなったグーグルとアップルの対立については多くのひとが注目している。そのひとり John Gruber が興味深い視点を提供している。
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そのひとつは、アップルが積極的な特許訴訟に踏み切った真意だ。
Gruber はアップルが Android にクギを刺したのではないかと考える。
Gene Steinberg のポッドキャストで、おおむね次のような指摘をしている。
The Tech Night Owl LIVE: “NOW PLAYING! March 25, 2010 — John Martellaro and John Gruber“: 25 March 2010
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Android は無料 OS ではない
・特許訴訟とはいっても、ライセンス交渉を有利に運ぼうとか、賠償金を狙う、ないしは特許荒らし(patent troll)を防御するということとは関係ない。
・グーグルの Android は iPhone に対抗する OS を無料でバラまいているところがマイクロソフトの Windows とも異なる。
・みんなが無料の Android 利用に乗り出すのをアップルはとどめようとしている。
・そのためには Android が無料ではない、すなわちアップルとの訴訟費用(legal defence to Apple)を覚悟しなければならないと示すだけでよい。それが抑止力として働くというわけだ。
・ひいては Chrome OS に対する抑止力ともなり、iPad への防御線が張れる。
iPhone に対抗しうるマルチタッチ OS を模索している多くの端末機メーカーに対して、Android は決して無料ではないと示せれば大きな抑止力として働くことは間違いない。Chrome OS というタブレット OS についても抑止力として働くことを考えれば、積極的攻撃に出る意味は十分ある。この意味で Gruber の問題提起は大変興味深い。
なお、グーグルが Android を開発したのはアップルに対する意図的攻撃ではなかったのかもしれないという点についても触れている。
他にも興味深い点が多々あり、正確にはポッドキャストを直接確かめていただくといいと思う。
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Gruber のもうひとつの指摘は、両社の対立が「将軍同士の闘い」であり、一般社員は「違和感」すら覚えているという点だ。
Daring Fireball: “Generals’ War” by John Gruber: 26 March 2010
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あからさまな敵意
ここで問題になっているのは、単なる競争ではなく「あからさまな敵意」だという点だ。グーグルとアップルがライバルであることはもはや疑いもない地点まで来ている。それは Android 対 iPhone というライバル関係であり、そして間もなく Chrome OS 対 iPad のライバル関係にもなるのだ。お互いが競争関係にあることはいいことであり、資本主義では通常見られることだ。しかし進行しているのはそれ以上のもっと敵意に充ちたもの、あからさまな敵意なのだ。ライバルとエネミーの違いだ。
The first is that what I’m talking about is outright hostility, not just mere competition. We’re well past the point where there’s any question whether Google and Apple are rivals, specifically in regard to Android-vs.-iPhone, and soon Chrome OS-vs.-iPad. Of course they’re competitors. That’s good, and a normal aspect of capitalism. I’m saying there’s something else going on, something more vicious. Outright hostility. The difference between rival and enemy.
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違和感
しかしもうひとつ言っておきたいは、この対立が経営トップおよび上級マネジメントのレベルで起きているということだ。両社のエンジニアはこのことを予期してもいなければ実感もしていない。私は両社にパイプを持っているが(もちろんアップルの方が多いが、グーグルについても他社に劣らず多い)、そのほとんどはエンジニアであり「経営トップ」ではない。本件に関し彼らの口から漏れてくるのは「違和感がある」[weird:奇妙だ、腑に落ちない]ということばだ。それなのに上級幹部からはグーグルがアップルに来て(あるいはその逆に)、敵意と怒りのことばに満ちた戦争が進行していると語るのだ。
The other thing I neglected to mention, and I think it’s important, is that this is all taking place at the executive and upper-management levels. The engineers — at both companies — are neither prepared nor relishing this. I have sources at both companies (more at Apple than Google, unsurprisingly, but more at Google than just about any company other than Apple), almost all of whom are engineers and none are “executives”, and the word that keeps popping up regarding this situation is “weird“. That there’s a meeting at Apple where Google comes up, or vice versa, and the managers are talking about waging war — vicious, angry talk.
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お互いに好意を抱いている
公然たる敵意というのはどちらの会社のエンジニアにとってもピンとこない。違和感があるのだ。この二つの会社には明確な企業カルチャーの相違がある。アップルのエンジニアはグーグルの作るソフトウェアが(効率的で利口ではあるが)不細工だと考える傾向があり、かつ「お前のデータは全部よこせ」というグーグルの戦略には疑いの目を向けている。一方グーグルのエンジニアは、アップルが Web のことを理解せず、古風で風変わりだと考えており、App Store の独裁的支配にはとことん腹を立てている。しかし全体としてみれば、両社のエンジニアはお互いに好意を抱いている。グーグルのサービスを使っているアップルのエンジニアはたくさんおり、アップルのコンピュータを使っているグーグルのエンジニアもたくさんいるのだ。
Outright hostility just doesn’t feel right to the engineers at either company. It is weird. There are decided and very obvious cultural differences between the two companies. Apple engineers tend to think Google makes ugly (but effective, smart) software, and they’re suspicious of Google’s “we want all of your data” strategy. Google engineers see that Apple doesn’t get the web — or at least the web as a software platform — and consider that quaint, and they’re flat-out offended by Apple’s autocratic control of the App Store. But, on the whole, the engineers at each company like each other. There are a lot of Apple engineers who use Google services and a lot of Google engineers who use Apple computers.
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将軍同士の戦争
これは将軍同士の戦争なのだ。アップルとグーグルの一般社員は戦争を求めておらず、予期さえしていない。
This is a generals’ war. The rank-and-file at Apple and Google aren’t looking for battle, or even expecting it.
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そして、その後に「ウワサの二人がお茶してる!」写真が登場した。
これですぐ思い出したのが「Steve Jobs と Bill Gates の世紀の対決」だ。[冒頭画像参照]
二人のライバルが公開の場で初めて世紀の顔合わせをすることとなったとき、メディアはこぞって激しい火花が散る対決を期待した。
しかし期待に反して二人は終始和やかだった。
今回表面化した Steve Jobs と Eric Schmidt の対立はどうだろうか。
個人的な愛憎劇のレベルまで高まった両者の敵意について多くのメディアが報道している。
しかし真実がどこにあるにせよ、対外的には両者とも大人の振る舞いをするということではないのか。
ここからはまったくの想像だが、次のようなシナリオはどうか・・・
Jobs が Schmidt へ電話を入れる。
「オレたちのことがだいぶ騒ぎになっているようだが、ここらでみんなに見せつけてやろうじゃないか。どこか適当な場所はないか。」
「私のシェフがやっているカフェがあるんだが・・・」
二人はみんなの目に触れる場所に出かけ、わざわざ写真も撮れるカフェの外に座る。
よく見ると、どちらが主導権を握っているか二人の様子からアリアリ・・・
想像を逞しくしたが、計算され尽くした演出と考えられないこともない。
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さらに想像を逞しくする・・・
なぜそんな演出が必要なのか?
過去の成功に安住せず常に次の高みを目指すアップルにとって、自社のエンジニアを鼓舞することは大きな問題だ。
そのために重要なのが「Archrival」[最大のライバル、いちばんの競争相手]の存在だ。
マイクロソフトが Archrival の座を降りたあと、グーグルやアドビがその役割を果たしているとは考えられないか。「グーグルのモットーなんて嘘っパチ」とか「アドビは怠け者」という発言は、Archrival の存在をエンジニアに意識させ、彼らを動機付けしようという試みと関係あるのでは?
対立の真実は巷間言われているものとは違うところにあるのかもしれない。
それにしても、稀代のコミュニケーターとしての Jobs の資質には恐るべきものがある・・・
Technorati Tags: Apple, Google, John Gruber, Lawsuit, Patent, Steve Jobs
いつも楽しく拝見させていただいています。
Apple×Googleの対立ですが、私の抱く印象としては互いのことが憎いのではなく、あくまでAppleとして、取るべき措置を取っただけなのではないかと考えます。
少々大げさかつ不適当な表現ですが、マフィアが身内を粛清するようなものではないか、と。
今回の両社の対立には、憎悪や敵意ではなく、もっと淡々としたものを感じます。
周りには格好のネタに見えますが、彼らの関係上、大したことではないのかもしれません。
もちろん今後のモバイルコンピューティングの趨勢を決することになりうる出来事ではありますが。
喧嘩別れ、というシナリオは互いの望むところではないでしょう。
乱筆乱文失礼いたしました。
どうかご自愛の程を。
> essacca さん
コメント ありがとうございました
真実は きっと両極端の間に あるのでしょう
おっしゃるとおり 「もっと淡々としたもの」かもしれませんね
もう片方の視点も 忘れないようにしたいと思います
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