[iOS 7 画面の奥行き:2分12秒ごろ]
Jony Ive が登場する iOS 7 の紹介ビデオで、オヤと思った瞬間があった。
iPhone の平たいはずの画面が、左右に傾けるとまるで奥行きのある立体画面のように見えたからだ。[2分47〜49秒ごろ]
「iOS 7 こそアップルを代表するもの」(’This Is Our Signature’: iOS 7)という John Gruber の投稿を読んで、そういうことだったのかと思った。
Daring Fireball: “‘This Is Our Signature’: iOS 7” by John Gruber: 10 June 2013
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ソフトウェアデザインも?
Jony Ive がハードウェアのデザインチームを率いることに疑問を抱くものは誰もいない。しかしソフトウェアデザインチームも率いることができるかどうかとなると、これは過去8か月の間アップルが直面した大きな問題だった。事実、アップルがこれまで直面した最大の問題だったともいえる。なぜなら、言わずと知れた誰かさんが船の舵をとらなくても、革新的なソフトウェアをアップルは出せるのかと尋ねるのと同じことだからだ。
No one has questioned whether Jony Ive can lead a hardware design team. Whether he could lead a software design team, however, has been the biggest question facing Apple over the last eight months. In fact, it might be the biggest question facing Apple, ever, because it’s another way of asking whether the company could produce innovative software without you-know-who at the helm of the ship.
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紛うかたなきイエス
今日その答えが出た。紛うかたなきイエスだ。Jony Ive はソフトウェアチームを率いることも出来るのだ。
Today, we have our answer, and it is a resounding yes. Jony Ive can lead a software team.
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重要な視点
Ive のアプローチ — そしてまた Forstall がいなくなった後のアップルの組織全体としてでもあるが、それを考える際にキーとなるのは、ハードウェアとソフトウェアを2つの異なったものと考えるのではなく、むしろデザインという単一のものとしてみることだと自分は考える。
The key, I think, is that his approach, and Apple’s as a whole under its post-Forstall organizational structure, is not to view this as two different things, hardware and software, but rather as a single thing: design.
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iOS 6 のリネン
iOS 7 のデザインには深い知的厳密さがある。それは Jony Ive のハードウェア的背景と深く関係しているのだと思う。ハードウェアの場合、デザインには物理的制約がある。重量、密度、大きさ、接続、継ぎ目などだ。そんな制約はソフトウェアのデザインにはない。iOS 6 の古いデザインでは制限がないことに便乗したがそれが裏目に出た。iOS 6 では、ホームスクリーンでフォルダーを開くと、背景にリネン(生地)が見える。通知センターをプルダウンすると、リネンが上から重なる。リネンは上にも下にもあるわけだ。ハードウェアの場合はそうはいかないが、ソフトウェアならそれができる。なぜならソフトウェアなら何でも見せることが可能だからだ。概念上の論理はどうでもいいのだ。
There is a deep intellectual rigor to the design of iOS 7, and it’s hard not to see it as being profoundly informed by Ive’s background in hardware. In hardware, design is limited by physics: weight, density, size, connections, seams. Software doesn’t face those design limits. The old design of iOS 6 took advantage of that lack of limits, to its detriment. In iOS 6, you open a folder on the home screen, and linen is something you see underneath. You pull down Notification Center, and linen is something you see over. It’s both over and under. Hardware doesn’t work like that, but software can, because software can show you anything, conceptual logic be damned.
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[iOS 7 画面の奥行き:2分47秒ごろ]
iOS 7 の3次元レイヤー
iOS 7 のデザインは法則に基づいている。複雑なシステムが働いている。3次元のZ軸のレイヤーが論理的に組み込まれているのだ。疑似的な3次元視角効果やテクスチャーの使用は極力減らされている。しかし iOS 7 は決してフラットではない。視覚的意味ではなく論理的な意味において3次元なのだ。今どこにいるのかという位置感覚を(誇示するためではなく)分からせるために半透明性(translucency)が用いられる。新しい Control Center パネルを下からプルアップすると、それが半透明なことからどこか新しい場所に移行したのではなく、前の同じ場所でその上に何かがあることが分かるのだ。
The design of iOS 7 is based on rules. There’s an intricate system at work, a Z-axis of layers organized in a logical way. There is a profound reduction in the use of faux-3D visual effects and textures, but iOS 7 is anything but flat. It is three dimensional not just visually but logically. It uses translucency not to show off, but to provide you with a sense of place. When you pull the new Control Center panel up from the bottom of the screen, its translucency lets you know that you haven’t gone somewhere new, you’re just looking at something over where you were.
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[iOS 7 画面の奥行き:2分49秒ごろ]
まるでハードウェアのように
iOS 7 では位置や、奥行き、広がりといった感覚がある。それがまるでハードウェアのように感じさせるのだ。ガラス面にレンダリングされたピクセルではなくホンモノなのだ。あたかもアップルのハードウェアであることがすぐ分かる設計目標を、Ive がソフトウェアデザインにももたらしたかのようだ。そこでは Ive のチームは物理的な制約を受けない。平面は厚さはゼロだが、真の意味でシステムなのだ。
There’s a sense of place, depth, and spatiality in iOS 7 that makes it feel like hardware. A real thing, not pixels rendered on glass. It’s as though Ive has brought the same design goals that have always informed Apple’s hardware to software. And here, his team isn’t limited by physics. Planes can have zero thickness. But it’s a system, in the truest sense of the word.
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過剰な美の排除
iOS 7 は完璧ではない。この新しいデザインのフレームワークは、iOS のオリジナルな美しさがそうだったように時とともに進化し、改良されるだろう。しかしこれはオリジナル iOS の美しさが持つ過剰な部分を修正するための概念上の基礎なのだ。まったく異なるものではあるが、決して見当外れではない。ケバケバしさやキラキラしたところは少ないが、より繊細で洗練されている。
iOS 7 is not perfect; this new design framework will evolve and improve over time, just like iOS’s original aesthetic did. But it’s a conceptual foundation that corrects all of the excesses of the original iOS aesthetic. It’s radically different but not disorienting. Less flashy, less bling, more subtle, more refined.
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人工甘味料的弱点
これはジョブズ亡き後のアップルの最初の製品だ。いくつかの点でアップルのソフトウェアデザインが結果的によくなったことを示している。なぜなら豊かなテクスチャーやギミックの類いを好んだのはジョブズ(Forstall も)だったからだ。ハードウェアに対するジョブズのセンスはほぼ完璧だったが、ソフトウェアの嗜好には人工甘味料的弱点があった。木目、リネン、贅沢なコリント風レザーなどで、すべては見かけ上のものだ。Jony Ive のソフトウェア嗜好にはこの弱点はない。
This is the first product of the post-Jobs Apple. The result shows that in some ways Apple’s software design has gotten better, because it was Jobs (and Forstall) who had a penchant for exuberant textures and gimmickry. Jobs’s taste in hardware was nearly perfect, but his taste in software had a weakness for the saccharine. Wood grain, linen, Rich Corinthian leather, etc. It was all just sugar for the eyes. This is a weakness Jony Ive’s software taste clearly does not suffer.
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デザインだけでいい
ソフトウェアは今やハードウェアの一部だ。この2つは同じコインの両面だ。ハードウェアデザインとソフトウェアデザインではない。デザインだけでいいのだ。
The software is now of a piece with the hardware. Two sides of the same coin. Not hardware design and software design. Just design.
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iOS 7 は決してフラットではなかった!
そんなところまで踏み込んだ Gruber はスゴい・・・
★ →[原文を見る:Original Text]
[…] 確かにデザインは「フラット」になったが、全体を見れば、実は今までアイコンや iOS が表していた視覚的な仮想三次元は、iOS 7 で論理的に三次元を表現したことで、もはやアイコンが本物の質感を模す必要がなくなった、本当の意味でより三次元に近づいた、的なことらしい。(iOS 7 は決してフラットではなかった! | maclalala2.) […]
一人のデザイナーによって、ハードウェアとソフトウェアが同じコンセプト、システムの元に最高のレベルで統合される事、iOS7はその意味で画期的だと思います。ビジュアルの好き嫌いで判断すると本質を見失う気がします。
凄い! 動画で見ると、もっと凄い。
[…] MavericksのMavericksとは映画にもなるようなサーフィンの聖地だった | CamCam iOS 7 は決してフラットではなかった! | maclalala2 iOSの方向性が見えた。WWDC2013基調講演の発表内容の振り返りと雑感 […]
ここ数年アンドロイドのUIの完成度が上がってきており、
今回のUIの刷新はビジュアル云々よりも重要な節目だったと思いますし、
誰かがやらなければならなかったものだと思います。
ただ、スコット氏にはできなかったし、それをみんなわかっていたのだと思います。
しかしながら今回の刷新は、海外のコメント欄にも見受けられますが、
いろんな秀逸アプリのパクリ感は否めません。
たくさんの外部アプリ開発者が考えぬいてきたものを一気に飲み込んでしまった、いやらしさを感じました。
発案されたものではなく、うまくまとめたと言ったほうが表現として正しいでしょう。
正直なところ、今回のIveの仕事はプロダクトほどの評価には値しないとおもいます。実際、それほどIveの仕事というわけでもないでしょうし。。
今回はあるデザイナーの仕事ではなく、アップル全体としての方向性をまとめあげた刷新ということだと思います。
[…] iOS 7 は決してフラットではなかった! […]
いつもありがとうございます。
いくつかコメントが出ている様ですが、Appleの核はそのプロダクトを使う人々の豊かな人生、が出発地点です。今も昔も変わらず。どのように感じるかは人それぞれですが、Macしかなかった時代から共通するこの部分を知らないとAppleに対しての期待が一人歩きして勝手な要望を押し付けることになります。そしてそれを気にもしない今回の発表が好評だったのもまたうなずけます。
断片を集めたのではなくストーリーを描いたら被った部分がある、がまだ近い表現かもしれません。
そして昔から共通する特徴として表面上の機能をとりあげて評論家ぶった適当な発言をする人も触ったら興奮する、触って初めて感覚を知るという部分が専売特許だなと今も感じます。
iOS7 のアイコンデザインはいまいちだなぁと感じたので、Gruber が何というのか楽しみにしていましたが、やはり説得させられてしまいます。
ところで、intellectual rigor は「知的苦しみ」というより「知的厳密さ」とした方が意味が通るような気がします。「視覚的意味ではなく論理的な意味において3次元」ということを指しているのですよね。
確かに3次元という点ではその方が論理的で厳密かも知れないけれど、その3次元概念は「過剰」ではないのかな。使ってみるとその意味が分かるのかも知れません。秋が楽しみです。
私は傾きセンサーを使わないで疑似3Dを体験できる実験的アプリ「i3D」と同じアイディアなのかと思いました。
顔認識を利用した技術で机に置いたままでも立体的に見えて面白いです。
更に傾きセンサーを併用すれば….どちらにしろ早く体感してみたいですね。
jonyになると遊びゴコロもなにもないつまらないデザインになるのではないかと疑心暗鬼だったのでほっとした。じっさいにUIとしてすぐれているがどうかは未知数だし、いままでがエセ3Dであたらしいのがモノホンだとはけっして思わない。アイキャンディのテーストがちょっとかわっただけじゃないかな。
でも、短期間によくここまで変えたと評価したい。変化のための変化でもいいじゃないか。jonyとFederighiのコラボがちゃんと機能することが分かっただけでも十分だ。
> む さん そのとおりですね
そのように 訂正しました
む さんの冒頭の言葉にある「アイコンデザインはいまいち」感,自分も感じるんですよね。浅いというか…MacやiPhoneその他,Iveチーム設計のハードウェアに通底していたデザイン言語とは異質なものを感じてしまうのは自分だけなのでしょうか。もっと硬質なデザインになるのではと思っていました。
[…] iOS 7 は決してフラットではなかった! | maclalala2なるほど。 恐怖を冒険に変えたUX 〜 デザインで魔法をかける | […]