iPhone 4 の緊急記者会見はうまくいったのか?・・・一日頭を冷やして考えたが、正直のところよく分らない。
記者会見当日は朝4時半に起きた。
ライブのときはいつもまず Engadget を見る。写真をざっと見て全体の流れを掴む。
それから Techmeme だ。各紙がどんな扱いをしているか様子が分る。
今回はいつもと違って、アップルサイトに早くもストリーミングビデオが掲載されている。
一刻も早く直接消費者にアップルの考えを伝えようという気持ちが伝わってくるようだ。
アップルのビデオ「July 16 Press Conference」を見る。
(以下、記者会見のテキストは最も正確な Jason Snell のライブ中継による。)
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「iPhone が気に入らなかったら返そう」と歌う皮肉な YouTube ビデオが開始早々スクリーンで流れる。
そして Jobs が登壇。開口一番つぎのように切り出す。「We’re not perfect.」
今回のポイントはアンテナに問題があることをアップルが認めるかどうかだ。
あ、これはうまくいくな・・・そんな感じがした。
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We’re not perfect
[We’re not perfect.]
ご存知のように、われわれは完璧ではない。電話だって完璧ではない。しかしわれわれはユーザーをハッピーにしたいと考えている。アップルがそう考えているということを知らないひとは、アップルのことが分っていない。
10:07 “You know, we’re not perfect. And phones aren’t perfect either. But we want to make all of our users happy. And if you don’t know that about Apple, you don’t know Apple.”
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この冒頭発言には今回の記者会見のすべてが込められている。
記者会見の行方がこれで見えてきた。
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ほっておいたわけではない
この問題について知ったのは22日前だ。それ以来精力的に調べている。
10:09 We heard about this 22 days ago and have been working our butts off
この3か月間、問題を避けて知らぬフリをしていたのではない。22日間のことなのだ。
10:09 It’s not like we’ve had our heads in the sand for 3 months; it’s been 22 days
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22日前ということは、Bloomberg のいうような1年前ではないということだ。
[Anechoic Chamber]
1億ドルかけたアップルの音響ラボ[Anechoic Chamber:無響室、電波暗室]を紹介した Jobs は、検証の結果、受信トラブルはどのスマートフォンにも見られることで、顧客の苦情申し出、返品率、通話切断の増加数などのデータから見ると受信トラブルは非常に限られたものだと説明する。
その後に続く Jobs の発言がアップルの本音だろう。
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誇張しすぎだ
受信トラブルがどの程度の問題なのか、それを理解することがとても大切だ。なぜなら、データを見れば、誇大に誇張されていると結論付けざるを得ないからだ。信じられないほどに・・・
10:28 But I think it’s important to understand the scope of this problem. Because the data leads you to the conclusion that it’s been blown so out of proportion, it’s incredible.
読む方はおもしろいかもしれないが、書かれる側はたまったものじゃない。(笑)
10:28 I know it’s fun to have a story, but it’s less fun when you’re on the other end of it. (laughter)
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解決策としてアップルは、全ての iPhone 4 購入者にバンパーを無償配布、それでも不満なひとには払い戻しに応じることを決めた。
アップルはユーザー大事(We love our users.)というわけだ。
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ダメージコントロールのお手本
見終わったあと、これはダメージコントロールの模範ケースなのではないかと思った。
自らの製品が不評でリコールすら取り沙汰されるときに企業は何をすべきかというダメージコントロールのお手本だ。
トップ自らが登場して、問題をどう真摯に受け止め取り組んでいるか、ユーザーのために何をしようとしているのかを本音で話す。
経営トップを壇上に並べて一斉に頭を下げさせるやり方の対極だ。
これで受信トラブルの問題は急速に終息するのではないかという感じさえ受けた。
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デザインミスを認めたか
それでは、アップルはデザインミスを認めたのか。Andy Ihnatko のまとめが端的だ。
iPhone 4 Press Conference: “iPhone 4 Press Conference – The Post-Game Wrapup” by Andy Ihnatko: 16 July 2010
Steve Jobs は床にひざまずき、衣装を掻きむしり、手を合わせて、ユーザーと投資家に許しを乞うことはしなかった。
多くのひとが意外な結果に腹を立てた。
そんな連中はバカだ。
Steve Jobs didn’t fall to his knees, rend his garment, clasp his hands together, and beg for forgiveness from users and stockholders.
This has upset many people.
These people are idiots.
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Jobs は何をいったのか
われわれは完璧ではない → われわれだって誤りを犯す → iPhone 4 はデザインミスだった
冒頭発言からそうなってもおかしくなかった。しかしそうはならなかった。
われわれは完璧ではない → われわれが完璧ではないように電話だって完璧ではない → どの電話にも弱点がある → 冷徹なデータによれば iPhone 4 は悪くない
最初のひとことが、いかに考えに考え抜かれた周到かつ絶妙な台詞であったか分る。
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冷徹なデータ(Hard Data)
アップルが自社のすばらしい音響ラボに触れたのは、Consumer Reports 誌に対するものであることは明らかだ。
しかし、どのスマートフォンにも弱点がある根拠として挙げたのは YouTube のビデオであって、最新鋭の音響ラボのテスト結果ではなかった。
Consumer Reports 誌も納得していない。
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メディアが納得したかどうか知るよすがとして、TechCrunch のビデオが興味深い。
MG Siegler や John Gruber を向こうに回して Michael Arrington が一歩も譲らないところは問題の根深さを象徴しているように思える。
TechCrunch: “A Raging, Rambling Debate About Antennagate, Followed By A Fanboy Intervention” by Michael Arrington: 16 July 2010
TechCrunch Japan: “iPhoneアンテナ問題で盛り上がった一日–最後はApple教信者たちの不条理を指摘してみたけど…“: 17 July 2010[iwatani 訳]
受信トラブルの本質は明らかになったのか? 納得しないのはメディアなのか? ユーザーはどう考えているのか?
問題が払拭されるまでにはまだ時間がかかりそうだ・・・
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追記:take it personally(7月19日)
今回の異例の記者会見のビデオは必見だが、とくに最後のサワリの3分間は見逃せない。
批判を受けたら、それを会社という組織に向けられたものではなく、Jobs という個人に向けられたものと考え取り組むというのだ。
[31:08 ごろから。テキストは Jason Snell のライブ中継による。]
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さらに努力する
こうするのは偏にユーザーを大切に思うからだ。われわれに及ばないことがあるときは、さらに努力する。気を取り直して、なにが間違っていたか考え、さらに努力する。うまくいけば、ユーザーはわれわれに留まってくれる。だからこそ努力する価値があるのだ。
10:35 We do all this because we love our users. When we fall short, we try harder. We pick ourselves up, figure out what’s wrong, and we try harder. And when we succeed, they reward us by staying our users, and that makes it all worth it.
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真摯に受け止める
それこそわれわれを突き動かすものなのだ。問題が起き、みんなが非難するとき、われわれはそれを真摯に受け止める(take it personally)。そうすべきでないかもしれない。広報担当の壁を作り、批判を遠ざけるべきかもしれない。しかしそうはしない。われわれは言われたことすべてに目を通す。われわれはユーザーを大切にするのだ。
[注]take it personally:個人攻撃と受け止める、真摯に受け止める
10:36 So that’s what drives us. When we have problems, and people are criticizing us, we take it really personally. Maybe we shouldn’t. Maybe we should have a wall of PR people keeping us away from it, but we don’t. We all read those stories. And we care.
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根本から解決する
問題の本質を理解し、バンドエイドを貼って済ますのでなく、解決の暁には根本から問題を解決したといえるようにしたいとわれわれは考える。
10:36 We’ve been trying to understand this so when we solve it, we really solve it, not slap a band-aid on it.
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スマートフォンの持つ限界
この問題、スマートフォンの持つ限界は、われわれの場合目立つものとなった。わざわざデモして見せるものまで現われた。われわれはバー表示でヘマをやった。だから、全てのひとにケースを配って、それでも問題があるというのなら全額払い戻しに応ずることにしたのだ。
10:37 The problem here is, Smartphones are limited, we made ours very visible, some people chose to demonstrate it, we screwed up with the display of the bars. So we are giving everyone a case and if you still have a problem, we’ll give you a full refund.
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アンテナゲートなど存在しない
しかしデータを見れば、iPhone 4 は世界で最も優れたスマートフォンであることが分る。「アンテナゲート(antennagate)」なぞ存在しない。あるのはすべてのスマートフォンにとってのチャレンジだけだ。いつの日かすべてのスマートフォンが弱点を克服すべきだというチャレンジだけだ。
10:37 But the data supports the fact that the iPhone 4 is the best smartphone in the world, and there is no “antennagate,” there is a challenge for the entire smartphone industry someday to improve so there are no weak spots on any phone.
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ユーザーが大切
われわれはユーザーを大切に考えている。最後のひとりに至るまでユーザーを大切にし続けるつもりだ。
10:37 We love our customers. And we’re going to try to take care of every single one.
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これを Jobs の現実歪曲空間(RDF:Reality Distortion Field)と呼ぶべきかどうか知らない。
しかしこういう発言ができる企業トップが Jobs をおいて見当たらないことだけは確かだ。
Technorati Tags: Antenna, Apple, Event, iPhone 4, PR, Press Conference, Steve Jobs
[…] This post was mentioned on Twitter by *モリノユージン™ / 森野憂人, Seyz, kota, #1 Doncaster Network, sunnycloudy and others. sunnycloudy said: iPhone 4 の記者会見はうまくいったか http://dlvr.it/2lHNK […]
私はAppleらしくていいConferenceだったと思いますね。特に冒頭のThe iPhone 4 antenna song『iPhone 4 欲しくないなら買わないで、買っていやなら返品してね』
いーじゃないですか。その通りだと思います。iPhoneシリーズを発売してから、特にiPad以降爆発的なユーザーの増加はむしろ異常です。
こんなに世界中で行列を発生させた工業製品があったでしょうか?
昔からのAppleユーザーには何でもないことが、新規のユーザーの方には理解できないこともあるのでしょうね。iPhoneがMacやWin PC、iTunesと密接に連動していることや、その素晴らしいUIを活かす手段が各国の通信キャリアにも依存しているということを全く理解しない一部のマスコミや訴訟目的の購入者には格好の商機となったことでしょう。(米国以外ではたいして問題にもなっていないことから通信キャリアの絡む問題なのではとも思いますし…。)
たぶんどのように説明してもこれ以上は水掛け論が続くだけでしょう。思っていたものと違うと感じたらぐだぐだクレーム付けてないで(笑)iPhone買わなきゃいいんじゃないですか。いやなら返品したらいいじゃないですか。AndroidでもRIMでもNokiaでもすきな製品に飛びついたらいいじゃないですか。(多分同じ目に遭うとは思いますが…)
私は23年間Apple製品を愛用し続けてきて、Macが好きで、iPhoneが好きで、iPadが好きで、Steve Jobsのわがままな製品作りが好きです。Appleの提案するLife Styleを気に入っています。
Appleは今までも十分生活をHappyにしてくれました。
今も十分Happyです。
現在使用しているiMacやMac Book Airと同じように、PB5300CやG4 CUBEなどの欠陥といわれた製品ですらそこらのWin PC(失礼)より大切な存在です。
むしろ、Appleユーザーが短期間に急増していることに危惧さえ感じるのは私だけでしょうか?
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概してアップルは、製品の価格を下げ過ぎでしょう。
不行き届きな顧客が増えることを助けるのは、正直よいことだとは思えません。
以前のように、すこし高めのマック、少し高めの製品でいいじゃないですか。
デフレとはいえ、行き過ぎの感が否めません。
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Appleからのはっきりしたメッセージは、お客様は神様です、でもtech mediaはくそくらえ、という感じでしょうか。このイベントにはジャーナリストの選別があったようで、空席がかなりありましたーーー参加できなかったMike Arringtonは気分をわるくして、こんな説明じゃ矛盾だらけだと、悪態をついているんじゃないでしょうか。
MaccastのAdam Christiansonによれば、iPhone 4の受信問題は、信号減弱(attenuation)と、アンテナ遮断(detuning)という2つの問題があって、会見でこれを明確に区別しなかったのは、遺憾だと言っています。すなわち、人間の手は液体の固まりのようなものなので、包み込むように握れば、受信感度が減弱するという、どのスマートフォンにでも当てはまる問題をビデオで見せて、外部アンテナの継ぎ目を押さえることによるショートの問題(これはiPhone 4のデザインに起因)とはっきり区別しなかったとーーーこれが、RIMやNokiaを怒らせているわけです。
面白いことにAdamは、Appleはひそかにアンテナのhardware fixを始めていて、rev2をこっそり出荷するか、genius barでしれっと個別交換するはずだ、だからフリーバンパーをSep 30までとしたのだろう、と予想しています。
そんなことしてもきょうび、iFixitが簡単に発見しちゃうゾ。
[…] Posted <b>iPhone</b> 4 の記者会見はうまくいったか « maclalala2. […]
電波問題のニュースソースを見ていると、誰がこの問題を大きく取り上げたいのかが分かってきますね!
いわゆる、大人の事情と言うのが如実に現れていて面白い!
白待ちの身の上としては、ホワイトモデルの予約開始の日時を早く報道して欲しいですよ。
実際に使っている人の大半どころかほとんど全てがiPhone4を手放さないんだから、推して知るべしですね。
上記でも指摘されていましたが、大人の事情なのでしょう。
いずれにしても、メディアはここまでハードルをあげてしまったんだから、この際他のメーカーのアンテナについても徹底的にやればいいのにと思います。
3本アンテナ(いわゆるバリ3)の表示の仕方の問題や、バッテリー表示の問題(%表記を使わずに長持ちしているように見せかけている)など、心理作用を逆手にとったある種”いんちき”と言えなくもない表示の仕方をしているメーカーはまだあるのでは?
せっかく人の目がアンテナ表示に向いているんだから、メディアはAppleにしたように、徹底的に検証してしまえば良いのです(というか、それが恐ろしいのか、Appleの検証で指摘された企業が「とばっちり」だなどとして言い訳している話が記事になっていますが、こういうときこそメディアが「ほんとかな?」とばかりに活躍するべきでしょうね)
ちなみに、僕も発売日当日に手に入れ、たしかにアンテナ表示の問題は確認しています。あくまでも気持ち的に通信がちょっとまったりするかなぁという程度でした。僕もいわゆるApple信者ですが、同時に信者だから嘘をつくなんてつまりはさらさらありません。
iPhone4は間違いなく「めっちゃ快適」そのものです。