[巨人ゴリアテに立ち向かうダビデ:image]
この冬は寒さがこたえる。
アップルの快進撃は寒さなぞものともしないが、少し気懸かりな点もある。
アップルに対するきびしい見方が出始めたように思えるからだ。
「アップル製品はなぜ中国で作られるのか?」という NY タイムズの記事は、アメリカの製造業が技術と雇用の面でいかに空洞化したかをアップルをケーススタディとして分析した優れた記事だった。
しかしその後同紙に現れた「中国の低賃金はアップル製品に織り込み済み」という長文記事ははっきりとトーンが異なる。誰にも愛される iPad が過酷な低賃金搾取労働の象徴だというのだ。
NYTimes.com: “Apple’s iPad and the Human Costs for Workers in China” by Charles Duhigg and David Barboza: 25 January 2012
TechCrunch Japan: “汚れた金か?―ニューヨーク・タイムズのApple記事を考える” by Devin Coldewey: 26 January 2012[滑川海彦 訳]
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同じ NY タイムズで何が変わったのか。この2つの記事の間に何があったのか。
先週1月24日にアップルから発表された最新の業績発表はすべてのひとの度肝を抜くものだった。その桁外れの業績が NY タイムズ報道に影響しているのではないかという気がしてならない。
アップル: “Apple、第1四半期の業績を発表” [Press Info]: 24 January 2012
Apple: “Conference Call – 2012 Financial Results, Quarter 1“: 24 January 2012
Seeking Alpha: “Apple’s CEO Discusses Q1 2012 Results – Earnings Call Transcript“: 24 January 2012
企業の業績は1年毎ではなく今や四半期(Quarter)という短いベースで評価される。その結果にウォール街は一喜一憂する。
クリスマスという絶好調期を含んだ四半期だったとはいえ、アップルが叩き出した利益は予想どおり桁外れのものだった。
アメリカ企業にとって過去最大の当期純利益は ExxonMobil が 2008 年末に石油価格の高騰のさなかに叩き出した 148 億ドルだ。すべての業種にわたってこれが歴史上過去最高の記録だ。
CNNMoneyTech: “The Second-Most-Profitable Quarter in Any Company’s History” by David Goldman: 24 January 2012
今回の130 億ドルというアップルの純利益はこれに次ぐ歴史上2番目の記録だ。1兆円を超える純利益が 2011 年10月〜12月の3か月で叩き出されたことになる。歴史的記録と呼ぶにふさわしい桁外れの額なのだ。
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マイクロソフトという大きな壁の前で消えてしまうかに見えたか弱いアップルが、ライバルコンピュータメーカーだけでなく、すべての IT 企業、すべてのアメリカ企業と比べてもそれをはるかに凌駕する存在になってしまった。
製造業など過去のもの、未来は金融工学の錬金術にあるとつい最近まで狂奔した経済が金融危機以降すべて呻吟する中で、唯一アップルだけがこの偉業を成し遂げたのだからすさまじいというほかない。
アップルの成功は少品種大量生産の典型だ。しかもその勢い止まるところを知らない。
まるでゴリアテの前のダビデのようにマイクロソフトにどうしても敵わなかったアップルが、気がつけば誰よりも大きい怪物のような存在になっている・・・
いったいアップルとは何なのか、なぜ成功したのかという分析は、アップルにとってのみならずアメリカ経済にとっても重大な関心事とならざるを得ない。
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しかし同時に気懸かりな点もここから始まる。
トップの座にあるものに対してはこれまでより厳しい視線が注がれる。
とくにアメリカではそうだ。マイクロソフトを独禁法違反事件が襲ったのもマイクロソフトが絶頂期にあるかに見えたときだった。
そこまでいかずとも、アップルの舵取りは今後大変むずかしくなると思われる。
製品戦略のちょっとした判断ミス、サプライチェーンで起きる問題などがこれまで以上にアップルに大きな影響を及ぼすことになるだろう。
NY タイムズのアップル批判記事もそういう背景から出てきたのではないか。
Steve Jobs というビジョナリーを失ってもなおこのような偉業を達成したのは驚くべきことだ。
Tim Cook の新しい指導体制のもと、アップルの動向には今後とも目が離せそうにない・・・
潰れそうな時期を知ってるマックユーザーとしては夢のようなハナシだ。しかし一人勝ちが妬まれるのは世の常だ。アップルが、”種も仕掛けもございません。真面目にイノベーションを積み上げて来た結果です”といくら言っても、”オレたちはぜんぜん儲かっていないのにアップルだけこの莫大な利益はヘンだ、なにか仕掛けがあるに違いない”と疑われる。
今のアップルに慢心があるとは言わないが、2004年頃のトヨタ自動車を忘れてはいけない。当時はハイブリッドが大当たりして、連結決算で一兆円を超える純益の飛ぶ鳥を落とす勢いだった。しかしその後の凋落はどうだろう。べつにトヨタの工場に空から隕石が激突したわけじゃない。安全問題、リコール問題、円高、そんないつでも起こりえる問題が深刻化しただけなのだ。他山の石としなくては。
1989年にSE/30を購入して以来のAPPLEユーザです。
Windows95にシェアを奪われて潰れるのは時間の問題だった1996年に
NeXTを買収し、JOBSを復帰させたことがAPPLEの死活を分けました。
あれからわずか15年で時価総額世界1の企業に躍進したのです。
たった一人の経営者によってここまで劇的に変わった企業があるでしょうか。
あのときNeXTではなくBeを買収していたらどうなっていたのかを想像すると
感慨無量です。