[Jony Ive at Apple Celebration – 19 October 2011]
アップル追悼式での Jonathan Ive のスピーチに心を動かされたひとは多い。
後になっても読めるようにと Geoff Coffey が追悼スピーチの全文を掲載しているので、改めてご紹介。
Posterous: “Jony Ive’s Steve Jobs Eulogy” by Geoff Coffey: 26 October 2011
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くだらんアイデアだが
Steve はよく私にいったものだ。(それも一度や二度じゃない。)「ヘイ、Jony。くだらんアイデアだが・・・。」 確かに実にくだらないときもあった。ひどすぎてどうしようもないこともあった。しかしときには部屋中がシーンとして、2人とも完全にことばを失ってしまうこともあった。大胆かつクレージー、そして素晴らしいアイデアの数々。目立たず、シンプルで、その繊細さの中に実に深いディテールが姿を潜めている。
Steve used to say to me (and he used to say this a lot), “Hey Jony, here’s a dopey idea.” And sometimes they were — really dopey. Sometimes they were truly dreadful. But sometimes they took the air from the room, and they left us both completely silent. Bold, crazy, magnificent ideas. Or quiet, simple ones which, in their subtlety, their detail, were utterly profound.
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初めは脆弱で
アイデアを愛し、モノ作りを愛したように、Steve はその創造的プロセスにも稀に見る畏敬の念をもって接した。思うに、誰よりも彼は深く理解していたのだ。アイデアが最終的には強力なものになり得るとしても、初めは脆弱で、ほとんど形をなさないものであり、たやすく見失ったり、妥協しやすく、押しつぶされやすいものであることを・・・
And just as Steve loved ideas, and loved making stuff, he treated the process of creativity with a rare and a wonderful reverence. I think he, better than anyone, understood that while ideas ultimately can be so powerful, they begin as fragile, barely formed thoughts, so easily missed, so easily compromised, so easily just squished.
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私は好きだった
一生懸命耳を傾ける彼の姿が好きだった。彼の感受性、際立った繊細さ、外科手術的ともいえる鋭い意見が好きだった。私は心底信じていた。彼の非凡な直感力と鋭さには美的なものさえ感じられると。ときにキツいこともあったけれど・・・
I loved the way that he listened so intently. I loved his perception, his remarkable sensitivity, and his surgically precise opinion. I really believe there was a beauty in how singular, how keen his insight was, even though sometimes it could sting.
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必ず掛かってくる電話
周知のように、Steve の卓越したセンスはモノ作りに限られない。一緒に旅をしたとき、チェックインして自分の部屋に入る。荷物はドアのところにおいておく。荷は解かないまま。ベッドへ行ってそこに座る。ベッドのそばの電話の傍らに座るのだ。そして必ず掛かってくる電話を待つ。「ヘイ Jony、このホテルはひどい。ここを出ようぜ。」
As I’m sure many of you know, Steve didn’t confine his sense of excellence to making products. When we travelled together, we would check in and I’d go up to my room. And I’d leave my bags very neatly by the door. And I wouldn’t unpack. And I would go and sit on the bed. I would go and sit on the bed next to the phone. And I would wait for the inevitable phone call: “Hey Jony, this hotel sucks. Let’s go.”
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我々がこだわるが故に正しい
気違いが精神病院を乗っ取るジョークを彼はよく口にした。誰も見ることのない製品のパーツに何か月も何か月も目の回るような興奮を共にしてきたからだ。目に見えるからではない。我々がそこまでやったのは、我々がこだわるが故にそれが正しいと信じたからだ。彼は信じていた。機能的に必要とされるものをはるかに超えて、それが市民としての責任とさえ考えられるほどの重力が働いているのだと・・・
He used to joke that the lunatics had taken over the asylum, as we shared a giddy excitement spending months and months working on a part of a product that nobody would ever see. Not with their eyes. We did it because we really believed it was right because we cared. He believed that there was a gravity, almost a sense of civic responsibility, to care way beyond any sort of functional imperative.
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犠牲を伴う
結果としては、必然的で、シンプルで簡単なものに見えてほしいが、それには犠牲を伴う。我々みんなにとって。何よりも彼がいちばん犠牲を強いられるのだ。最も心を砕いたのは彼だ。いちばん気を揉んだのは彼だ。彼は絶えず問い続ける。「これでいいのか? これで正しいのか?」と。すべての成功と成果にもかかわらず、達成したとは決して認めない。アイデアが出ないとき、プロトタイプが失敗したとき、彼は断固としていうのだ。いずれすばらしいものを造り出せると信じると。
While the work hopefully appeared inevitable, appeared simple and easy, it really cost. It cost us all, didn’t it? But you know what? It cost him most. He cared the most. He worried the most deeply. He constantly questioned, “Is this good enough? Is this right?” And despite all his successes, all his achievements, he never assumed that we would get there in the end. When the ideas didn’t come, and when the prototypes failed, it was with with great intent, with faith, that he decided to believe we would eventually make something great.
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美と純正さに対する勝利の証し
達成したときのよろこび! 彼の情熱と、無邪気によろこぶ姿を見るのが好きだ。(ホッとした気持ちもだいぶあったとは思うが。) そうだ、とうとうやったのだ! ついに我々はやってのけた。すばらしいことだ。彼の笑みが目に浮かぶではないか? みんなのためにすばらしいものが出来たことを祝う。シニシズムは敗北し、言い訳は拒否する。何百回となく「そうじゃない!」といわれたことも否定する。これこそ美と純正さ(口癖ではどうでもいいとよくいったけれど)に対する彼の勝利の証しだ。
But the joy of getting there! I loved his enthusiasm, his simple delight (often, I think, mixed with some relief) that, yeah, we got there. We got there in the end and it was good. You can see his smile, can’t you? The celebration of making something great for everybody, enjoying the defeat of cynicism, the rejection of reason, the rejection of being told a hundred times, “You can’t do that.” So his, I think, was a victory for beauty, for purity, and, as he would say, for giving a damn.
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Thank you, Steve.
私にとって彼は最も親しく、最も忠実な友だった。15年近く仕事を共した。(今でも私が「アルミニウム」というと言い方がおかしいといって笑う。)
He was my closest and my most loyal friend. We worked together for nearly fifteen years. (And he still laughed at the way I say “aluminium”.)
この二週間、どう別れをいえばいいのか悩んできた。「Thank you, Steve」ということばを今朝の結びのことばにしたいと思う。キミの素晴しいビジョンに対して、並外れたひとびとを結びつけ鼓舞してきたことに対して感謝を捧げたい。キミから学んだすべてのこと、これからもお互いに学び続けることに対して。Thank you, Steve.・・・
For the past two weeks, we’ve all been struggling to find ways to say goodbye. This morning I simply want to end by saying, “Thank you, Steve.” Thank you for your remarkable vision, which has united and inspired this extraordinary group of people. For all that we have learned from you, and for all that we will continue to learn from each other: Thank you, Steve.
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心打つスピーチだ。
ひとつひとつのことばが、Jobs と共に長い時間を過ごした者のみが語れる本物のことばであることを直感させる。
Jonathan Ive はデザイナーとしてだけでなく、話し手としても素晴らしい達人であることが分かる。
すばらしいデザイナーは、真に善きものをことばでも伝えることが出来るということなのだろう。
ぜひとも Ive の8分間のスピーチを再度ご覧いただきたい。
アップルの公式ビデオ[49 分ごろから]
→ Celebrating Steve | Appleジョニー・アイブのスピーチ
→ Jonathan Ive, at celebration o Steve Jobs life | YouTube
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Jobs 亡き後のアップルに欠かせないプレゼンターとしての資質を Ive が備えていることを窺わせるに十分だ。
しかし Jobs が亡くなる前日の iPhone 4S 発表イベントに彼の姿はなかった。
イベントに付きものの新製品紹介ビデオでも、いつもならトップにくる Ive の姿はない。
あまりにきれいさっぱり無さ過ぎて、Ive の存在を消し去ったのかと勘ぐりたくなるほどだ。
それだけではない。
Jobs をして「スピリチュアル・パートナー」とまでいわしめた Ive のことが、アップル追悼式までまったく聞こえてこなかった。
アップル追悼式のセレモニーでは、Ive の出番は Tim Cook、Bill Campbell、Norah Jones、Al Gore に続く5番目で音楽演奏の後だった。
久しぶりにその姿を見たとき、「やっと姿を見せた」という気がした。
Jobs 亡きが故に一層期待される Jonathan Ive だが、これまでどおりの活躍が見られることをぜひとも期待したい・・・
★ →[原文を見る:Original Text]
[…] ジョニー・アイブの追悼スピーチ « maclalala2 […]
すばらしいですね。
10月4日のiPhone4Sの発表を見てずっと考えてたことがありました。
Tim CookはCEOでもかまわないけど,新製品のプレゼンテーションはJonathan IveのほうがAppleの考え方,提案を的確に伝えられるような気がするんですよね。
Apple製品ってハードウェアのスペック的にどうこうというより,その製品を使ったらどんな生活が待っているか,どんな体験ができるかとワクワクするところが魅力だと思うんですよね。
こういうことはハードウェアとソフトウェアを同時に提供するApple以外ではできないからこそ私も20年以上Appleユーザーでいられたわけですけどね。
ところで,今回のiPhone4Sの新機能の中ではSiriがやはり衝撃でしたが,Appleらしいおちゃめなアイデアですね。
AppleはMacintosh時代にもMacに自己紹介させたり,HyperCardでテキストを音声で読み上げることができたりしました。
人とコンピュータとのコミュニケーションに対するこだわりは,ひょっとしたらSteve自身の心の空虚感を満たす『何か』を求めるcontact toolの探求だったのかもしれませんね。
ああ、やっぱり取り上げていただいた!ありがとうございます。
Iveのスピーチずっと気になっていたのでうれしいです。
話は変わりますが、NYTimes掲載のJobsの妹さんの言葉もとても深いもののようですね。
> taka (@splash_blue) さん
「Mona Simpson が心を打つ追悼のことばを述べた」という話はずいぶん耳にしましたが本当でしたね。
これまででいちばん心を動かされました。
Jonathan Ive や Mona Simpson の追悼のことばは、抜粋や概要ではなく全文を読んで然るべきだと思いました。
はじめまして。いつも楽しく拝見しています。実際、ジョニーの弔辞が一番心に響きました。時折笑いが聞こえてきましたが、彼の寂しさ、喪失感が痛々しく感じられました。