論議を呼ぶ Flash について、Steve Jobs の公開書簡が公表された。
Apple: “Thoughts on Flash“: 29 April 2010
本問題を一貫して追ってきた John Gruber が、その第一印象を記している。
Daring Fireball: “Steve Jobs: ‘Thoughts on Flash’” by John Gruber: 29 April 2010
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公開書簡のポイントは
iPhone OS における Flash について、Steve Jobs が詳細な反論を展開している。説得力があり、詳細かつ直截、残酷なまで正直だ。ごまかしなぞ一切ない。ぜひとも全体を通して読んで欲しいが、いくつかポイントとなる点がある。まず、アップルとしては iPhone OS に Flash を加えたいと思ってもそう出来なかったという点だ。
Steve Jobs makes the case against Flash on iPhone OS. Cogent, detailed, straightforward, brutally honest. No prevarication. Read the whole thing, but there are a few choice bits. First, Apple couldn’t include Flash on iPhone OS now even if they wanted to:
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しようと思っても出来なかった
われわれはこの数年間、アドビに対して何度も、モバイルデバイスで・・・如何なるモバイルデバイスでも・・・Flash がちゃんと作動することを示して欲しいと申し入れてきた。しかしそれは一度も実現しなかった。アドビはスマートフォン用の Flash が 2009 年初頭には出荷できると公言した。それは 2009 年後半になり、2010 年前半になり、とうとう今では 2010 年後半になっている。いずれは出荷されるだろうが、固唾を呑んで出荷を待たずによかったと思う。それにちゃんと動くかどうかだって分らない・・・
We have routinely asked Adobe to show us Flash performing well on a mobile device, any mobile device, for a few years now. We have never seen it. Adobe publicly said that Flash would ship on a smartphone in early 2009, then the second half of 2009, then the first half of 2010, and now they say the second half of 2010. We think it will eventually ship, but we’re glad we didn’t hold our breath. Who knows how it will perform?
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出来たとしてもしなかった
もう一点目は、たといt Flash を加えることが出来たとしても、そうはしなかっただろうという点だ。
And they wouldn’t if they could:
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サードパーティに命運は委ねられない
われわれは苦い経験から学んだのだ。プラットフォームとデベロッパの間にサードパーティソフトというレイヤーを介在させると、結局はアプリケーションが標準以下のものとなり、プラットフォームの充実や進化を妨げる結果となることを・・・。デベロッパがサードバーティの開発したライブラリやツールに依存するようになれば、たといプラットフォームが進化しても、その新機能をサードパーティが採用しない限り、デベロッパがその恩恵に与ることはできなくなる。いつデベロッパが改良された機能を利用できるようになるかという決定を、サードバーティの手に委ねることはできないのだ。
We know from painful experience that letting a third party layer of software come between the platform and the developer ultimately results in sub-standard apps and hinders the enhancement and progress of the platform. If developers grow dependent on third party development libraries and tools, they can only take advantage of platform enhancements if and when the third party chooses to adopt the new features. We cannot be at the mercy of a third party deciding if and when they will make our enhancements available to our developers.
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アドビに残された余地はない
読み進む間、この件に関してアドビとして対応可能な余地がほとんどないことに気付く。
While you’re reading it, think about how little wiggle room the whole thing leaves for Adobe to respond.
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John Gruber の視点はなかなか鋭いが、筆者としては公開書簡の第5点、タッチに関する部分が特におもしろかった。
問題はタッチなのだ
Flash はマウスを使う PC のために設計されており、指を使うタッチスクリーンのためのものではない。その証拠に、多くの Flash ウェブサイトが「rollover」を用いている。マウスのポインタが特定の場所の上に来るとメニュー他の要素がポップアップするものだ。アップルの革新的マルチタッチインターフェイスはマウスを使用しない。だから、rollover というコンセプトもない。Flash ウェブサイトの多くはタッチを利用するデバイスについては書き替えが必要だ。デベロッパが Flash ウェブサイトを書き替える必要があるというなら、どうして最新の HTML5 や CSS、JavaScript といった技術を利用しないのか。
Flash was designed for PCs using mice, not for touch screens using fingers. For example, many Flash websites rely on “rollovers”, which pop up menus or other elements when the mouse arrow hovers over a specific spot. Apple’s revolutionary multi-touch interface doesn’t use a mouse, and there is no concept of a rollover. Most Flash websites will need to be rewritten to support touch-based devices. If developers need to rewrite their Flash websites, why not use modern technologies like HTML5, CSS and JavaScript?
iPhone や iPod、iPad が Flash に対応したとしても、Flash ウェブサイトの多くがタッチベースのデバイスのために書き替えられなければならないという問題は解決しないのだ。
Even if iPhones, iPods and iPads ran Flash, it would not solve the problem that most Flash websites need to be rewritten to support touch-based devices.
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いよいよ深層が噴き出してきたのかという思いがする。
Flash の問題は、つまるところ「マルチタッチで何が変わるのか」ということに帰するのだと思う。
Flash に関するすべての論議は、今後はこの公開書簡を踏まえて展開されることになるだろう。
1700 語近い長文だが、一度は全体を通して読んでおかねばなるまい。幸い「田園 Mac ~Mac Pastorale~」、「APPLE LINKAGE」、「Engadget 日本版」、「トブ iPhone」、「てっく煮ブログ」、「TAROSITE.NET」などの日本語訳が参考になる。
★ →[原文を見る:Open Letter]
★ →[原文を見る:John Gruber]
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追記:なぜ今なのか(5月2日)
Flash の恩恵をほとんど受けない筆者と違って、その開発に携わる方々にとっては事は重大だろう。
Flash の第一人者である深津貴之氏の意見にはこれまでも注目してきたが(ここ、ここ)、公開書簡に対するコメントも見逃せない。
議論すべきは、なぜスティーブ・ジョブスが、わざわざ公式発表をしたのか? あるいはせざるを得なかったのか?ということだと思う。ジョブスの発現[ママ]の一字一句にキャッキャしたり怒るのではなく、いま現在、声明を出すことがAppleの利益になるか、あるいはこの声明を出さない場合Appleの不利益なるという状況がリアルタイムに進行中であり、ジョブスが直々に動かざるを得ない大きな政治的ポイントであるということ。
fladdict: “JobsのFlash搭載しない声明について雑感“: 01 May 2010
本問題を理解する上で「なぜ今なのか」という視点は大変重要だと思う。
Technorati Tags: Adobe, Apple, Flash, iPhone OS, John Gruber, Open Letter, Steve Jobs
6番目の最も大事な理由というのを、John Gruberは何週間も前から見抜いていたわけで、恐れ入ったというしかありません。
個人的に印象に残ったのは、”FLASHはthe PC era (パソコンの時代)に開発されたモノで、the mobile era (モバイルの時代)には通用しない”というくだりで、FLASHはたしかにそうなんでしょうが、”パソコンの時代もハイおわりです”といっているような気がして、毎日仕事にMacを使う者としてはやや心配。
最後のむすびのところで、Adobeは過去(の遺産)なんかすててHTML5のツールでもつくった方がいいと勧めているのは、ちょっと挑発的で笑えますね。
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■AppleのJobs CEO、モバイル端末におけるFlash拒否の理由を公開書簡で説明―アップルの長期戦略の中に”Flash”はない?
ブログ名:Funny Restaurant 犬とレストランとイタリア料理
こんにちは。ジョブスがFlash拒否の理由を公開書簡で説明しました。これは、いろいな憶測や論争を生み出しているようですが、ビジネスや利益という側面から考えてみれば、当然のことだと思います。特に私が「水道の蛇口戦略」などと呼んでいる、Appleの長期戦略においては、Adbeに中核的技術が握られているということは不味いことなのだと思います。だからこそ、これを排して新たな道を模索しているのだと思います。一方Googleは、今後発表する予定のGoogle Chrome OS中にFlashを包含するそうです。これからも、このような合従連合などが繰り返されて、新たなより便利で、低廉なサービスが開発されていくのだと思います。詳細は是非私のブログを御覧になってください。