《Update:サムスンが見落としたもの》
[iPhone をパクるサムスン:image]
アップル対サムスンの裁判は、アップルが完勝したと Nilay Patel[The Verge]が総括している。
The Verge: “Apple decisively wins Samsung trial: what it means” by Nilay Patel: 24 August 2012
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アップルの完勝
これはアップルにとって圧倒的で決定的な勝利だという以外に言いようがない。
There is no way to interpret this as anything but a sweeping, definitive victory for Apple.
アップルは陪審員に対して、iPhone は5年の歳月を費やした革命なのに、それをサムスンはたったの3か月でコピーしたのだと言い続けてきた。そして陪審員はそれにハッキリと同意した。特に重要なのは、既知の技術(prior art)にすぎないというサムスンの説得にも関わらず、アップルのすべての特許は有効だとした点だ。
The company spent most of the past month telling the jury that the iPhone was a revolution five years in the making, and that Samsung had taken just three months to copy it, without bearing any of the costs or risks involved. The jury clearly agreed — and most importantly, the jury agreed that all of Apple’s patents are valid, even after Samsung spent hours trying to demonstrate prior art.
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ライセンス料を払っていれば
裁判の初めのころ、アップルがサムスンにライセンス料の支払いを持ちかけた話があった。
スマートフォン1台当たり 30 ドル、タブレット1台当たり 40 ドルをクロスライセンス料として支払えというものだ。
それを払っていれば2億5千万ドルで済んだとアップルは試算している。
その話を蹴って裁判に持ち込んだので、アップルが請求した損害賠償額は25億ドルになった。
今回は故意(willful)の侵害が認められて10億ドルの賠償支払いを命ずる評決となった。(裁判官がトリプルダメージを認めれば3倍の賠償額になる可能性もある。)
巨額の訴訟費用を別にしても、サムスンの完敗といわざるを得ないだろう。
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陪審員の心をつかむ
「アップルのすべてを盗むだろうと思った」という Phil Schiller の証言に対して抱いた「アップルメディアイベントでの大勝負のプレゼンテーションに比べれば、陪審員に語りかけるのは彼にとってたやすい技のように見えた」という印象は正しかった。Schiller はやすやすと陪審員の心をつかんだのだ。
双方の弁護団がこれでもかと繰り出す法廷戦術や、Lucy Koh 裁判官の辟易した発言はメディアの格好のネタになったが、それも陪審員の心証を左右する大きな一因だったのではないか。
陪審員の代表はつぎのように発言している。
Reuters: “Jury didn’t want to let Samsung off easy in Apple trial: foreman” by Dan Levine: 25 August 2012
無条件のお墨付き
「私たちは、特定の企業が — いかなる名前の企業であれ — 他人の知的財産権を侵害することに無条件のお墨付き(carte blanche)を与えようとは思わなかったのです」と Hogan は評決の翌日語っている。
“We didn’t want to give carte blanche to a company, by any name, to infringe someone else’s intellectual property,” Hogan told Reuters a day after the verdict.
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シロウト判断
特許訴訟といえば、テキサスの法廷で行なわれることが多く、内容自体もシロウトには分かりにくく、法律に精通したもの以外には解説さえできないというのが相場だった。
結局はカネで相殺する(クロスライセンシング)のがオチで、利するのは法律屋とパテントトロールだけ・・・
アップルのお膝元で行なわれた今回の裁判は、じかにユーザー心理に訴えたアップルの作戦勝ちだったように思える。
その意味で、シロウト判断が大きな役割を果たしたように見える今回の裁判は、特許訴訟に新たな一石を投じたのではないか。
アメリカの特許制度の影の部分が図らずも白日の元に曝されたともいえそうだ。
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2010 年の報告書
筆者として今回の裁判でいちばんひっかかったのは、裁判の初期のころ明らかになった 132 ページをこえるサムスンの内部資料だった。アップルが証拠として採用させることに成功した 2010 年の報告書で、iPhone と Galaxy(コード名 S1)の相違を徹底比較し、何を為すべきかの指針を添えたものだ。
これを見たときの第一印象は、事の当否はともかく、これって業界ならどこでもやっていることではないのかと思ったのを覚えている。
サムスンの発言もそれを裏付けている。
AllThingsD: “Samsung 2010 Report: Make Galaxy More Like the iPhone” by John Paczkowski and Ina Fried: 07 August 2012
日常的に行なっている
サムスンにコメントを求めたところ、同社代表は AllThingsD に対し、この書類は一見不利な証拠に見えるかもしれないがそうではないのだと答えた。「サムスンはライバル企業の評価テストを数多く行なっています。事実、これは、多くの業界で多数の企業 — アップルを含む — が日常的に行なっている典型的な競争力の評価テストなのです。」
Reached for comment, a Samsung representative told AllThingsD that this document isn’t nearly as damning as it might appear: “Samsung benchmarks many peer companies,” the rep said. “In fact, these are typical competitive analyses routinely undertaken by many companies in many industries – including Apple.”
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「look and feel」
今回の裁判は「look and feel」訴訟の範疇に入るのではないかと思われる。
かつてアップルは Mac OS の「look and feel」が Windows OS によって違法にコピーされたとマイクロソフトを訴えたことがある。
David Pogue が Windows Vista と Mac OS X の類似性に着目して書いた記事がとても興味深い。マイクロソフト内部のソフト開発事情を彷彿とさせる場面(「レッドモンドのコピーマシン」)に触れているからだ。
結局はアップルがマイクロソフトにライセンスする形で解決を見た。
「look and feel」が似ていても構わないという風潮はこのころに根ざすのではないかという気がする。
今回アップルが完勝したのは画期的なことだろう。
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業界の慣行?
今やどの IT 分野もライバルが拮抗し合う世界だ。
強力なライバルが出たら、徹底分析して研究するのは誰でもやることではないのか。
ガジェットファンなら誰でも知っている新製品のバラシ — それって業界慣行の表われではないのか。
詳細写真とパーツ番号まで添えた iFixit のバラシ、それぞれのパーツの部品価格がいくらになるかは iSuppli に聞けば分かる。
これこれのパーツをこうやって組み立てれば、誰だっていくらいくらで出来ますよといっているのも同然ではないか。
まさに業界の体質そのものに深く根ざした慣行ではないのかという気がする。
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リバースエンジニアリング
かつて日経エレクトロニクス分解班が MacBook Air を分解したレポート(【MacBook Air分解その5】外は無駄なし,中身は無駄だらけ)で物議をかもしたことがあった。彼我のデザイン哲学の差を問うたことから内外で大きな反響を呼んだ。
これだってデザイン哲学という宗教戦争に持ち込まなければ、徹底分析のひとつとしてすんなりと受け入れられたのかもしれない。
徹底的にバラし、とことん研究することに「リバースエンジニアリング」という立派な名称が与えられていることにも、業界周知の慣行であることが窺われる。
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裁判がもたらすもの
このあとも、法廷劇の第2幕として上訴もあれば販売差し止め請求もあるだろう。米国以外での裁判も進行中だ。
しかしいずれはライセンス料を支払わない限り、類似のデザインが認められなくなることは目に見えている。
その影響は類似の Android 製品を作るライバルメーカーだけでなく、マイクロソフトなどの対抗製品にも及んでくるだろう。
今後の商品開発には、開発者もデザイナーも、性能評価テストだけでなく、どこぞの特許を侵害していないかと常にチェックせざるを得なくなる。
今回の裁判結果がもたらす影響は想像を絶するように思われる。
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長い長い裁判は、これまたある意味でアメリカ的で、直感的な終わり方をした。
これまで法廷ドラマの一挙手一投足にふりまわされていたメディアも、これからは腰を据えてその意味するところを読み解くことになるだろう。
法廷劇をどう報じるか — メディアのあり方という意味でも、読者にとって大変参考になる出来事であった・・・
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《Update》サムスンが見落としたもの(8月28日)
[”Boy have we patented it” | YouTube]
iPhone 発表のときのキーノートの肝心の部分をサムスンが見落としたため、今回の敗因につながったのではないかと Dalrymple はいう。
Steve Jobs: Boy have we patented it.
ジョブズ:「なんと、(ぜんぶこの)特許を取っちゃったんだよ。」
[…] « maclalala2 Posted 2012年8月26日 Check アップルの完勝、サムスンの完敗 « maclalala2[iPhone をパクるサムスン:image] […]
かつて、iMacをコピーしてつくった、e-oneというPCがありました。どう考えてもCHANELの類似品のCHANNELと大差ないようなその醜いコピー製品の発表会で元インテル日本法人代表取締役社長と元マイクロソフト日本法人代表取締役社長が「e-oneは日本と韓国のグローバルアライアンスとして、評価している。個人的にはりんごマークの人たちがここ(発表会)に来るんじゃないかと期待している」などと意匠権侵害商品をほめていました。その後、案の定メーカーはAppleに訴えられ、裁判、その後発売中止(まあ、あたりまえか)となりました。なので、今回もAppleの勝ちだろうなと密かに思っておりました。今年、イ・ゴンスにして、日本の技術を越えたといわしめたのは裸の王様かなと。自社開発力があると考えるのはちと、早計かな。経営のスピードでは尊敬できる人だけど、自社技術に関しては完全に勘違いしているご様子。コピーはね、誰でもできる。今回の結果は前述の日本人経営者のバカさ加減もさることながら、韓国人経営者のバカさ加減も負けてねーぞといってるようです。あー情けない。
他社製品を時にはバラして分析、はどこでもやります。
ただし、ここの機構が特許だから、うちが同じようなものを作るのならライセンスを受けるか回避しよう、となるのが普通です。
もしバラして分析などせずに似てしまったのなら、それは故意ではないという言い訳が出来ますが、バラして分析して、調べればそれが特許技術であるかどうか分かるような状況で似てしまったとなると、これは故意にやったと判断されるでしょう。これがつまり、誰でもやることをやっていたこと、が問題になる理由ではないでしょうか。
日本のメディア(大手新聞レベルですが)では、技術進歩が早いのでサムスンへの影響は少ないというような安直な評価だったように思いますが、どうなんでしょうかね。このブログを読んで勉強していたら、もう少し深い議論が出来たのではと思いました。
マイクロソフトは既にクロスライセンス結んでますよ