iPad のプロモーションビデオの冒頭で Jonathan Ive がつぎのように語りかける。
どうして動くのか理解できないものに出会うと魔法みたいにみえる。iPad がまさにそうなのだ。
It’s true when something exceeds your ability to understand how it works, it’s sort of become magical. And that’s exactly what iPad is.
過去の延長上でしか物事を見ることが出来ないひとには iPad のことは理解できないといっているようだ。
そのことに触れたすばらしい文章がある。
Mule Design Studio’s Blog: “The Failure of Empathy” by Mike Monteiro: 03 February 2010
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アバターと iPad
日曜日にまた「アバター」を見に行った。映画の初めの方で科学者が「未来のプレート型携帯コンピュータ」を抱えて歩くシーンがある。この半世紀 SF 映画なら必ず出てくるやつだ。ジェットパックにならタダでついてくるかもしれない。今回は例の[iPad 発表の]一か月後だった。12歳になる息子が私を振り向いていった。「パパ、iPad だよ。」
I went back for a second helping of Avatar this Sunday. There’s a scene early on in the movie where one of the scientists walks across the lab carrying the “mobile computer slab of the future.” We’ve seen one of these in almost every sci-fi movie of the last 50 years. It comes free with a jetpack, I suppose. Except this time, one month later, my 12 year old son turns to me and whispers “Look Dad, it’s an iPad.”
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コンピュータに代わるもの
みんないってるように、iPad の発表はコンシューマデバイスの世界(アップルもその一部に iPhone を出している)に大砲の弾を打ち込んだみたいなものだった。それは iPhone とラップトップの間に位置するものだともいわれた。私にはもっと広い世間のひとのためのものに見える。ラップトップの代わりにひとびとが求めるものに・・・
As many others have noted, the release of the iPad might be the cannonball into the consumer device pool the iPhone dipped its toes in. It’s also been referred to as a thing that sits between that iPhone and your laptop. I see it as more of a fork in the road. It’s the thing many people will get INSTEAD of a laptop.
iPad はコンピュータの未来ではない。コンピュータに代わるものなのだ。
The iPad isn’t the future of computing; it’s a replacement for computing.
iPad は複数の企業が過去20~30年にわたりやってきたことの成果なのだ。息子のバックパックから教科書20ポンド分を軽くしてやるもの、安心して自分の両親に買ってあげられるもの、そういうものなのだ。
It’s the payoff to all the work done by multiple industries over the last 20–30 years. It’s the subtraction of 20lbs of textbooks in my son’s backpack, and the device I finally feel comfortable buying my parents.
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プロの反応
だから、 iPad が発表された日のみんなの反応には驚いた。「たいしたことない」、「興味ない」、「オープンじゃない」、「でかい iPhone じゃないか」といったつぶやきでいっぱいだった。しかもその大部分はユーザーとの双方向経験(interactive experiences)をデザインし構築するひとたちからのものだった。デザイナーあるいは技術者として、自分たちとは異なるひと(not us)のためにインターフェイスを設計しているにも関わらず、「コンピューティング」というコンセプトについて十分な飛躍をなし得ていないことを自分たちは痛感している。
That’s why I was surprised by the reaction the iPad got the day it launched. Following along on Twitter I was seeing things like ‘underwhelming’, ‘meh’ , ’it’s not open’, ‘it’s just a big iPhone’, etc. And most of this stuff was coming from people who design and build interactive experiences. As designers, and technologists we’re very much aware that the interfaces we build are for people who are “not us,’ but we still haven’t made that leap about the concept of “computing.”
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映画に出てくるヤツ
ひとびとが求めているのは Ubuntu や OpenID[大衆を相手にするにはなんとひどい名前か]を搭載した「タブレットコンピュータ」ではない。彼らにとってクローズドかオープンかなどどうでもいいのだ。はっきりいってしまおう。彼らにとって DRM なんて、バスケットボール選手がジュースミキサーなんかどうでもいいのと同じだ。たいしたことをいっているわけじゃない。動いてくれさえすればよく、動かなくなったら簡単に修理できればいいのだ。それがマジックだというのなら、彼らはみんなそれに精通していることになる。
The people don’t want “tablet computers” with Ubuntu and OpenID (worst name ever for a product attempting broad acceptance). They could honestly give a shit whether it’s a closed or open system. And, let’s be really honest, they probably care as much about DRM as they do about baseball players juicing; by which I mean not very much at all. They want things to work most of the time, and be easy to fix when they don’t. And if the process by which it happens is “magic” they are totally cool with that.
彼らが欲しいのは映画に出てくるヤツなのだ。
They want the thing in the movies.
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プロが心すべきこと
業界として理解しておかなければならないことがある。それは root アクセスを求めるスーパーユーザーでないからといってバカにされることはないということだ。root アクセスなぞだれも求めていない。それが分らなければ、思いやり(empathy)が欠如しているというだけでなく、なすべき仕事(service)を理解していないということになる。
As an industry, we need to understand that not wanting root access doesn’t make you stupid. It simply means you do not want root access. Failing to comprehend this is not only a failure of empathy, but a failure of service.
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Mike Monteirono の投稿に添えられた冒頭の図がすべてをいい得ているように思う。一般ユーザーはギークの数をはるかに超えてしまったのだ。
iPad が未来の扉を開くものだとすると、その未来を描くのもギークではなく一般ユーザーだということでもある。
ageha 氏のつぶやきはこの意味で大変興味深い。
[ipad]WinであれMacであれ「今ある形のパソコン」に染まっている我々は「ホントのダイナブック」が出て来た時にうまく理解できなくなっている。筈だ。http://bit.ly/aK3bOt。http://bit.ly/aUaJYE
a_ge_ha
技術的にはアラン・ケイの理想に手が届くようになったのに、過去の歴史に引きずられて目が曇ってしまうということはないか・・・
「iPad はコンピュータの未来ではない。コンピュータに代わるものなのだ。」という Mike Monteiro の発言は重いと思う。
★ →[原文を見る:Original Text]
Technorati Tags: Apple, Computing, iPad, Mike Monteiro, Tablet
はじめまして。さすがシローさん、ありがとうございます。iPadのモヤモヤをクリアにしていただきました。
だから“シングルタスク”(目の前のものを操作する、裏でなんかうごいてるとかしらないし)なんですよね。
いろんなことが出来るけど、その時やることは一つ。専用デバイスではないけど汎用デバイスでもなく専任デバイスか。
iPad=here and now deviceですね。
Appleが前から言っていたこと、the rest of usなんですよね。object orientedそのものですね、目の前に見えるものは触ってつかめますと。
iPhoneアプリが動くからって言うのは、とりあえずiPadのすごさが分かんなくても、使えるでしょって言う入り口に過ぎなくて。
geek寄りとしては、いろいろしたくなるけど。
自称Apple好きの人で結構、iPadを非難する人が多いことに驚いています。この記事で言えば、Geekよりになる人でしょうか。
その人たちいわく、どうやらiPhoneのOSのデザインをそのまま持ってきたり、シングルタスクであることがどうやら不満だそうです。
Macしか出していなかった頃は、新製品を新しいOSとともに出して、一斉に話題をかっさらうということが出来ました。
しかし今、Macの他に、iPhoneやiPad、iPodなど様々なハードウェア、OSを出しているとなると、一つの製品の位置づけが他の製品の位置づけにも影響しかねませんし、特にiPhoneとiPadは兄弟製品となるため、どうしても新製品の発表と新OSの発表を同時に行うことができません。
それは、5年しかApple製品を使用していない私ですらわかる話なのですが、十数年来のApple信者の人は、OSがダイナミックに新しくなっていないことに、不満たらたらでAppleにはもう魅力がなくなったとすら言い出す人もいるぐらいです。
まぁ、わからなくはないのですがiPad+iPhoneOS4.0での進化を見ない限り、iPadの評価を出すのは早計過ぎる気がします。
とりあえず、去年と同じであれば、3月には新しいOSのプレビューが出てきそうなので、少し期待しています。
いつも、分かりやすい翻訳記事をありがとうございます。
初めてコメントを致します。
前々よりシローさんのブログ楽しみにしてきました。これからも、お願い致します。
さて、PC(Mac)に代わるものとしてのiPadだとすると、Macに繋げなければ使えない(iPhoneと同じだとして)、iPadは、「The rest of us」にとって何になるのでしょうか?ただ、管理人(root)の垣根が下がっただけの様な気がします。全ては手に取ってからでしょうね。3月が楽しみです。
しかし、今のAppleは、昔の「Big brother」の様で、近い将来海賊の旗を揚げた自由を愛する会社が出て来る様な気がします。
歴史は繰り返すでしょうか?
何時までも貴方のこのブログが読める事を、毎日楽しみにしています。
健康に注意して頑張って下さい。
ものすごく同意。
Apple ComputerはApple inc.になったんですもの。
私は母親用に次期もしくは次次期モデルあたりを買いたいと思っています。
ひとつ引っかかってるのは、母艦にMacなりが必要なこと。
iPod、iPhoneと同じく、母艦の切り取りっぽいところかな。
AppleTVの機能を良く知らないのですが、
iPadから、TimeCapsuleかApple TVに指令をして、
本体にアクセスして、データを読むとか、クラウドでやるとか、
そうなって行くと良いなあ。
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シングルタスクは良いと思う。ウイルスとかの問題のリスクをずっと下げられる。USB がないのも同じ理由で賛成。カメラがないのも教育市場を考えたら納得できる。
でも,現状flashを切ったのは、rest of usには問題かも。みれないサイトが多すぎる。
ただ、セキュリティを考えると、切りたい理由もよくわかる。
adobeは確かに怠惰だ。
皆の指摘どうり、あと母艦がクラウドにならないとiPadはまだ未完成だ。いまきっと必死にやっているはず。動画dataなんかも、ローカルに保存するんじゃなくて、利用権だけを管理して販売すればいい。どうしてもdataも手元に置きたい人はmacを買うという選択も残して。ただこの戦略あまりにappleがビッグブラザー化しそうな点だけが、嫌だけど。
> manta さん
たしかに マルチタスクの議論も 違って見える気がしますね
どちらに身を置くかによって 評価にも変わってくるということでしょうか
> ゆきち さん
古くからのマックユーザーのひとりとして つい私も あれこれ求めたくなります
Jobs & Co は 新しい裾野に 目を向けているかもしれないのに・・・
> Shige さん
手に取る前だからこそ いろいろ意見を出せる機会かもしれません
コンセプトとしての iPad の利点や欠点を 明らかにする意味でも・・・
> reima さん
たしかに 母艦としてのマックは 大きな問題ですね
iPad が 独立の存在になるためには どんなステップが 必要なのでしょうか
> oliza さん
アップルのクラウドサービスが どのような形で登場するのか 楽しみですね