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Posts Tagged ‘Clayton Christensen’

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[次に来るもの:photo

「破壊的イノベーション」

Clayton Christensen といえば、従来製品の価値を破壊してまったく新しい価値を生み出す「破壊的イノベーション」(Disruptive Innovation)で有名だ。それをテーマにした『イノベーションのジレンマ』(The Innovator’s Dilemma)は一部の論者に熱狂的に支持されている。

革新的な企業は波瀾を巻き起こしながら発展するという彼の視点の続編が『The Innovator’s Solution』だ。衝撃的な ASUS とデルの寓話もここで登場する。

Christensen の最新作『How Will You Measure Your Life?』で共著者に名前を連ねたのが James Allworth だ。Allworth はハーバードビジネススクールのフェローで、Christensen の愛弟子のひとりでもある。

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2つの知性のぶつかり合い

当ブログでも取り上げた Allworth のサムスン論は4か月ほど前に Horace Dediu のポッドキャスト「The Critical Path」に登場している。

The Critical Path #56: Strategic Disadvantages: A discussion with James Allworth | 5by5

実は、財務データにモノを言わせる才能では他の追随を許さない Horace Dediu もまた Christensen の教え子だ。

Horace Dediuユニークな経歴の持ち主で、難民としてルーマニア生まれ、イタリーを経て米国に移民、大学でコンピュータサイエンスを学び、後にハーバードビジネススクールで Christensen の元でビジネスについて学ぶ。卒業後はフィンランドに移住、ノキアに勤める。[自分の将来を決めかねているひと、自分のブログについて悩んでいるひとは Dediu の経歴だけでも一読すべき。]

恩師の Christensen は数字の達人と呼ばれる Dediu の大ファンであることを公言して憚らない。[Dediu の Christensen インタビューこちらも参考)もぜひ聴きたい。]

Horace Dediu と James Allworth という愛弟子同士が議論を交わしたのが Critical Path のポッドキャストだった。二つの知性のぶつかり合いという意味でも、語られる内容が刺激的だという意味でも注目のポッドキャストだ。まるでビジネススクールの教室風景を彷彿とさせて、対話というもののあるべき姿とはこういうものかと思ってしまう。

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MediaTek のチップセット

このポッドキャストにはサムスン論だけでなく、その他にも様々な興味深い視点が登場する。

そのうち特に筆者の興味を呼んだのが次の2つだ。

まず第1は、ローエンドスマートフォンにおける MediaTek チップセットの存在について。[20:00 分ごろから]

iPhone もどき、Android もどきが尽きることなく登場する中国の携帯市場だが、それを可能にしているのが MediaTek のチップセットだ。

MediaTek チップセットに様々なスキンをかぶせて iPhone もどき、Android もどきというクローン市場が生まれる。

ローエンドスマートフォンでは MediaTek のチップセットが圧倒的なシェアを誇り、Huawei[華為技術、ファーウェイ]、ZTE[中興通訊]などのメーカーに採用され、インド、インドネシア、アフリカなどの市場を席巻する。

まさにかかるシングルサプライヤーとしての MediaTek の存在こそ、技術が「満足できるもの」(good enough)となった証しではないのか — だからデザインは陳腐化して誰でもコピーできるスキンにすぎなくなったのではないか、と議論は展開していく。

HP が新しい PC を検討するときのエピソードも衝撃的だ。どんな新製品を出すかを決めるにあたって、プロダクトマネジメントが台湾の ODM を訪れ、彼らが提供できるものの聞き取りを行ない、それにスキンして出すのが新製品だという話。

中国 Huawei や ZTE のスパイ疑惑がアメリカで問題になったことも記憶に新しい。

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次なる破壊的イノベーションとしてのインプット方式

もうひとつは、新しいインプット方式という観点から破壊的イノベーションを捉えた点だ。[40:00 分ごろから]

iPod のスクロールホィールに端を発するタッチ方式が iOS デバイスの革命的成長をもたらした。

スティーブ・ジョブズ亡き後のアップルは、果たしてこの1〜2年で新しいインプット方式を出せるかだろうかと Dediu は問う。

Siri という音声入力方式が登場したとき、スクリーンを必要としなくなることに興奮したと Dediu はいう。究極のパーソナルアシスタント、コミュニーケーター製品の未来を垣間見たからだ。

にも関わらず、登場以来 iPhone のインターフェイスは基本的には変化していない。未だデザインにこだわり過ぎて、新しい入力方式という技術に対応できていない。小さな画面にアイコンを詰め込む今のモデルはそのうち成り立たなくなるのではないか。

音声入力方式は未だデザインも性能もひどいものだが、いずれはすばらしいものになるのだろうか。オールドビジネスから新しいビジネスを生み出してきたアップルがここでもリードを保てるのか。

他社の市場に参入して破壊的イノベーションを演じたアップルが、自らのマーケットについても破壊的であり得るのかどうか(self-disrupt)という問いだ。

Google Glass[冒頭写真]のようなものがアップルラボでも試みられているのではないか。そのインターフェイスはどう変化するのかなど、音声入力方式、ウェアラブルコンピュータ(wearable computer)についての議論も興味深い。

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ポッドキャストの衣替え

Horace Dediu は筆者の大好きなライターのひとりだが、書いたものだけでなくポッドキャストもなかなかに聞き応えがある。上に紹介したポッドキャストも聴くひとの期待を裏切らない。

その「The Critical Path」は衣替えして、本年からは「High Density」として再スタートした。Glenn Fleishman をゲストに迎えたその第1回も非常にオモシロく、今年も目が離せない。

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全米家電ショー(CES)

折しも恒例の全米家電ショー CES[Consumer Electronics Show:全米家電協会主催の家電見本市]がラスベガスで開催される。

Macworld Expo がまだ開催されていたころは、(メディアの注目度という意味では)その引き立て役という感じが強かったが、今ではどうだろうか。

躍進を続けるサムスン、業績不振の日本勢 — それぞれがどうフィーチャーされるか興味深い。

あまりに大きくなり過ぎて収拾がつかなくなったと嘆いたのは Mat Honan だったが、今年の The Verge も同じようなトーンで書いている。

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「第5の騎士」論

サムスンといえば MG Siegler の年頭記事「第5の騎士」がこれまた興味深い。

TechCrunch: “The Fifth Horseman: Samsung” by MG Siegler: 06 January 2012

最近のアップル対サムスンの訴訟合戦でこの韓国の会社はアメリカでは物まね企業のレッテルを貼られたようだ。しかしこれは危険な過小評価だ。いかなる尺度でもいまやサムスンは技術業界でも最も重要な企業のひとつに育っているのだ。まさに5番目の騎士[注:ヨハネの黙示録の四騎士から]なのだ。

It feels as if the recent Apple/Samsung legal battles have branded the South Korean company as little more than a copycat in this country. But that’s a dangerous underestimation of a company that is quickly becoming one of the most important ones in tech right now by pretty much every metric. A fifth horsemen.

これまで過小評価されてきたサムスンを評価し直そうとするものだ。

今年がどういう展開になるのか見ものだ。

日本の IT 産業にもまた陽が当たる日がくることを祈念したい。

★→[ポッドキャストを聞く:The Critical Path

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Apple CEO Steve Jobs resigns, Cook in charge

[アップルの2つの側面:photo

James Allworth のサムスン脅威論のつづき

アップルの持つ真の強みは何かという視点からの考察。

asymco: “The real threat that Samsung poses to Apple” by James Allworth: December 2012

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アップルの持つ真の強み

まず最初に、真似される(copying)ということはアップルにとってさほど脅威ではないという点を指摘しておきたい。昨年 John Gruber は「アップルの新しい優位性」(The New Apple Advantage)という記事を Daring Firebal に投稿した。アップルとその製品を高く評価する多くのひとと同様、Gruber も初めはアップルのデザインを評価したと同記事で書いている。しかし Gruber がアップルの真の競争上の優位性(true competitive advantage)だとした点が実にオモシロいのだ。

But first, I want to establish why copying is actually less of a threat to Apple than you might think. Daring Fireball’s John Gruber wrote last year on what he termed “The New Apple Advantage“. Like most people who appreciate Apple and its products, the starting point for Gruber’s appreciation of Apple is its design — he says as much in the article. But the realization that Gruber has in the article on Apple’s true competitive advantage is what’s really interesting:

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以下、その Gruber の記事から:

二人の人物のおかげ

ここで話を単純化して考えてみよう。15年にわたるアップルの成功は二人の人間のおかげだと考えるのだ。ひとりは Steve Jobs、もうひとりは Tim Cook だ。Jobs の功績は、「美しい beautiful」、「エレガント elegant」、「革新的 innovative」、「楽しい fun」という形容詞で表される。Cook の功績は「手ごろな価格の affordable」、「信頼性のある reliable」、「もうかる profitable」という形容詞で表される。Jobs がデザインし、Cook が製造して販売する。

So let’s be lazy for a second here, and attribute all of Apple’s success over the past 15 years to two men: Steve Jobs and Tim Cook. We’ll give Jobs the credit for the adjectives beautiful, elegant, innovative, and fun. We’ll give Cook the credit for the adjectives affordable, reliable, available, and profitable. Jobs designs them, Cook makes them and sells them.

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Jobs 的側面、Cook 的側面

アップルのライバル(電話であれ、タブレットであれ、ラップトップであれ)がマネできるのは Jobs 的側面だ。だから特許が問題になり、訴訟が起きる。デザインはマネ出来るのだ。だが Cook 的側面もある。スケールメリットという利点だ。複雑な製品ラインアップを持つ会社にはこれはマネ出来ない。たとえばデルのような会社はラップトップのカテゴリーとして「Design & Performance」や「Thin & Powerful」という区別をしているが、そんな会社がいったいどうしてマネなど出来ようか?

It’s the Jobs side of the equation that Apple’s rivals — phone, tablet, laptop, whatever — are able to copy. Thus the patents and the lawsuits. Design is copyable. But the Cook side of things — Apple’s economy of scale advantage — cannot be copied by any company with a complex product lineup. How could Dell, for example, possibly copy Apple’s operations when they currently classify “Design & Performance” and “Thin & Powerful” as separate laptop categories?

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誰にもマネできない

私としては密かに思い当たることがある。私がアップル製品に関心を持ってきたのは優れたデザインがその理由だった。アップルのビジネスとしての側面に興味を持ったことはなかった。しかし今になって明らかになってきたことは、アップルのデザインがいかに優れたものであっても、ライバルに遥か先んじ、持続できる強みをもたらしたのは、まさにそのビジネスとオペレーションの力、すなわち Cook 的側面であるということだ。それはアップルが経てきた数十年に及ぶプロセスと同じものを経験しない限り、誰にもマネできないのだ。[強調部分は Allworth による]

This realization sort of snuck up on me. I’ve always been interested in Apple’s products because of their superior design; the business side of the company was never of as much interest. But at this point, it seems clear to me that however superior Apple’s design is, it’s their business and operations strength — the Cook side of the equation — that is furthest ahead of their competition, and the more sustainable advantage. It cannot be copied without going through the same sort of decade-long process that Apple went through. (emphasis mine)

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性能が満足できるものとなった時点で

すばらしい分析だ。アップルのデザイン的側面とは iPhone で見たように新しい事業を再定義できる能力のことだ。次の目標がテレビ市場であれそれ以外のものであれ、アップルが当初成功したのはデザインを統合したという点が決定的な役割を果たしたからだ。然るにアップルのビジネス的側面に比べて、デザインは実際にはどのカテゴリーの製品の場合でも、いったん当該カテゴリーの性能が「満足できるもの」(good enough)に達した時点では永続的な戦略的優越性(sustained strategic advantage)をもたらさなかった。IT 産業は常に真似をすることで発展してきた。いったんどうやればいいかが分れば、みんなが殺到する。その時点で、デザインよりも、ビジネスをどうやるかということが重要になるのだ。

The argument is beautifully made. The design part of Apple’s equation is to their ability to redefine new industries as they did with the iPhone. Whether they go after the TV market next, or something else, it’s this integrated design component that will be crucial to their initial success. But compared to the business side of Apple, design actually generates much less sustained strategic advantage in any one product category, once performance in that category becomes “good enough”. The tech industry has always revolved around copying. Once folks work out how it’s done, everyone piles on. And at that point, it becomes much less about design than it does about how you operate your business.

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同じプロセスを繰り返さなくても

Gruber からの引用で特に重要なのは「アップルが経てきた数十年に及ぶプロセスと同じものを経験しない限り、誰にもマネできない」という最後の部分だ。たしかに彼は正しい。ライバルにとってアップルが成し遂げたのと同じプロセスをそのまま繰り返すことは非常に難しい。しかしこのことから、私はある考えとそれに関連する物語に思いを馳せたのだ。それは幸いにも自分の師と仰ぐことができた Clayton Christensen から学んだことだ。ライバルにとってアップルの真似をする必要はなかったのかもしれない・・・。

It is the last part of the Gruber quote that really drives things home. “It cannot be copied without going through the same sort of decade-long process that Apple went through”. He’s right — it’s very hard for a competitor to outright replicate what Apple has achieved without going through all the same steps. But it got me thinking of a concept — and a related story — that I learned from someone I was fortunate enough to have as a teacher: Clayton Christensen. Perhaps a competitor didn’t have to copy Apple.

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もしも・・・

もしもライバルがすでにアップルから十分に学んでしまっていたらどうだろうか?

What happens if Apple had already taught them?

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前回紹介した Asus とデルの寓話はこの後に続いている。

Gruber の指摘を手掛かりに、ビジネス的側面の重要性に考えを飛躍させたところがオモシロい。

性能が満足できるもの(good enough)となった段階では、デザインよりむしろビジネスの側面が重要になるという視点だ。

そしてサムスンはすでに必要なものを学んでしまったのではないかという問いかけは実に刺激的だ。

★ →[原文を見る:Original Text]

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《参考》以下の投稿も James Allworth のサムスン脅威論のに関係したものです。

1)アップルにとってサムスンの真の脅威とは何か
  Asus とデルの寓話
2)アップルの真の強みとは?[本稿]
  アップルの持つ2つの側面
3)コモディティ化したデザイン
  デザインはコモディティ化してしまった
4)アップルに残された道は何か
  アップルのとるべき方策

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samsung-vs-apple

[真の脅威とは:image

アップル対サムスンの特許訴訟こちらも]は今年の大きな話題のひとつだった。

アウトソーシングという視点からこの問題を分析した James Allworth の議論が大変興味深い。

asymco: “The real threat that Samsung poses to Apple” by James Allworth: December 2012

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アップルが造り出したもの

アップルとサムスンの最近の激しい特許訴訟についてはたくさんの記事が書かれており、収まる兆しも見せていない。サムスンの電話ビジネスはあっという間に成功の階段を駆け上がった。アップルが心配するのも無理はない。しかしアップルにとってサムスンの真の脅威は、アップルのデザインを真似したかどうかとは関係ない。特許訴訟はアップル自らの手で造り出した脅威を鎮めるための(高価で危険だとしても)便宜的な手段に過ぎないのだ。グーグルが自らの OS を構築したいものへは誰でもタダでモバイル OS を配ったことがサムスンの成功に大きな役割を果たしたことは否めないが、サムスンの今日の成功に寄与した企業があるとすれば、アップルをおいて他にはない。

A lot of ink has been spilled in the wake of the recent Apple Samsung patent disputes, and the legal wars see no sign of abating any time soon. The rise of Samsung’s phone business has been meteoric, and Apple is right to be concerned. But the real threat that Samsung poses to Apple has very little to do with the copying (or not) of Apple’s designs. The lawsuits have simply been a convenient (if expensive and risky) way to attempt to quash a threat that is of Apple’s own making. While there’s no doubt that Google has played a key role in Samsung’s success by handing out a free mobile operating system to pretty much anyone who wants to build one — it is actually Apple, more than any other company, that is responsible for Samsung’s present success.

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アウトソーシング

いったいどうやって? — それは多くの仕事をサムスンにアウトソーシングすることによってだ。Tim Cook が昨日アップルの製造業を米国に取り戻すと発表したことは、この問題を是正する試みの始まりなのだ。

How? By outsourcing as much work to Samsung as they have. And it’s impossible not to wonder whether Tim Cook’s announcement yesterday on bringing back Apple’s manufacturing to the USA is the beginnings of an attempt to rectify the problem.

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Asus とデルのケース

アウトソーシングの持つ危険性について最初に取り上げたのは Clayton Christensen の「The Innovator’s Solution」だった。サードパーティのメーカーに「付加価値の低い」仕事をさせて効率の最大化を図ることがいかに危険な行為であるか説明している。Christensen と Michael Raynor は同書で「コンポーネント会社」と「テキサスコンピュータ会社」という架空の会社を例にして説明している。幸い私も Christensen の最新著作「How Will You Measure Your Life?」を共同執筆する機会があった。そこでもこれに似たケースを取り上げたが、架空の名前を使うことはしなかった。Asus とデルのケースがそれだ。デルが簡単な回路基板を手始めに、その仕事を Asus にアウトソーシングしたことによって、自らのライパルを育て上げたのだ。

Christensen first wrote about the dangers of outsourcing in The Innovator’s Solution, explaining how seeking to maximize efficiency by employing third party vendors to do the “low value-add” work for you can be a lethal strategy. In the Solution, Christensen and Michael Raynor gave the example of two fictional corporations—”Component Corporation” and “Texas Computer Corporation”. I had the good fortune to work with Clay on his most recent book, How Will You Measure Your Life?, and we recount a similar story; only without any of the players being disguised. The story is that of Asus and Dell, and how by outsourcing its work—starting with just basic circuit boards—Dell equipped a competitor:

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引用された Clayton Christensen の分析は次のようなものだ。

Asus の提案

Asus はデルにこういった。「私たちはデルのマザーボード製造をうまくやりました。コンピュータの組み立てそのものも私たちにやらせてくれませんか。製品の組み立てそのものは御社の成功の原因ではないでしょう。すべての製造設備を御社のバランスシートからお引き受けします。そうすれば2割は安くできます。」

Asus came to Dell and said, “We’ve done a good job fabricating these motherboards for you. Why don’t you let us assemble the whole computer for you, too? Assembling those products is not what’s made you successful. We can take all the remaining manufacturing assets off your balance sheet, and we can do it all for 20 percent less.”

この提案はどちらにとってもプラスになることをデルのアナリストは理解した。

The Dell analysts realized that this, too, was a win- win…

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サプライチェーンからデザインまで

かくてデルはサプライチェーンの管理からコンピュータそのもののデザインに至るまでアウトソーシングした。いってみればデルはパーソナルコンピュータビジネスのすべてを — デルのブランド名を除くすべてを — Asus にアウトソーシングしたのだ。デルの純資産利益率(Return on Net Assets)は非常に高いものとなったが、それはコンシューマー部門にはほとんど資産が残っていなかったからだ。

That process continued as Dell outsourced the management of its supply chain, and then the design of its computers themselves. Dell essentially outsourced everything inside its personal-computer business—everything except its brand— to Asus. Dell’s Return on Net Assets became very high, as it had very few assets left in the consumer part of its business.

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付加価値の高い事業部門へ

そして 2005 年になって、Asus は自社ブランドのコンピュータを出すことを発表した。このギリシャ悲劇的な物語で、Asus はデルからすべてを学び、自らのものとしたのだ。最初はバリューチェーンの単純な一部に過ぎなかったが、デルが残った事業のアウトソーシングを決定するたびに次に付加価値の低い部門へと及んでいった。かくて Asus には付加価値の高い事業部門が次々と加わっていった。

Then, in 2005, Asus announced the creation of its own brand of computers. In this Greek-tragedy tale, Asus had taken everything it had learned from Dell and applied it for itself. It started at the simplest of activities in the value chain, then, decision by decision, every time that Dell outsourced the next lowest-value-adding of the remaining activities in its business, Asus added a higher value-adding activity to its business.

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バリューチェーンのはるか上流まで

この物語はデルと Asus というそれぞれ2つの側面から見ることができる。デルにとっては金融効率の最大化を図るべく、部品製造や組立をはるかにこえる部分にまでアウトソーシングを行なった。バリューチェーンのはるか上流までアウトソーシングしたのだ。一方 Asus の立場から見れば、小さな部品メーカーに過ぎなかったものが、成功するまで事実上デルによって育て上げられた。デルの Asus に対する教育は、バリューチェーンのはるか上流まで及んだことを考えると非常に大なものであったことが分かる。

There are two sides to this story: the part that relates to Dell, and the part that relates to Asus. Dell, in its quest to maximize its financial efficiency, continued to outsource way beyond manufacturing components and assembly. They outsourced a long way up the value chain. But there’s also the side of the story that relates to Asus — a small components manufacturer that was, in effect, nursed to success by Dell. The extent of the schooling delivered by Dell to Asus was pretty profound, given how far up the value chain Dell outsourced its operations.

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Asus からサムスンへ

そこで問題は、デルが自らの命運を決めるに至る決定を行なったのはどの時点だったかという点だ。アウトソーシングの限度をこえたのが、単純に付加価値の低い仕事を手放そうと考えたときだったのか、それがデルの行なったアウトソーシング全部に及んだのだろうか。個人的には部品開発と組立だけで十分だったのではないかと考えている。サムスンについていえば、アップルが放っておいたも同然の生まれたばかりのマーケットに参入したことで、学ぶべきことすべてを学んだように思える。

But here’s a question: at what point did Dell seal its fate? When was it that Dell had outsourced enough that Asus, with a desire to simply get out of the low-value work, could have made it all the way to the point that it did? I’m beginning to wonder whether just component development and assembly was enough. In the case of Samsung, it seems that everything else they needed to learn, they did by entering the emerging market, which Apple has largely left alone.

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付加価値の低い、非効率的仕事を切り捨てて行くことこそグローバリゼーションの本質だった。鬼っ子はそこから生まれた。

マックを含めて製造業を米国に取り戻すという動きは、その延長上で捉えるべきだという視点はとても興味深い。

★ →[原文を見る:Original Text

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《参考》以下の投稿も James Allworth のサムスン脅威論のに関係したものです。

1)アップルにとってサムスンの真の脅威とは何か[本稿]
  Asus とデルの寓話
2)アップルの真の強みとは?
  アップルの持つ2つの側面
3)コモディティ化したデザイン
  デザインはコモディティ化してしまった
4)アップルに残された道は何か
  アップルのとるべき方策

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Update:デバイスではなくアプリに過ぎない》


[iPhone にとっての5年:photo

iPhone が誕生して5年目を迎えたが、John Gruber がその成功を簡潔にまとめている

Daring Fireball: “The iPhone and Disruption: Five Years In” by John Gruber: 02 July 2012

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Christensen の予測

有名な著書『The Innovator’s Dilemma』の Clayton Christensen参考]は、5年前に iPhone が登場したとき間違いを犯した

Clayton Christensen, author of the deservedly much-praised The Innovator’s Dilemma, was wrong about the iPhone five years ago:

携帯電話に搭載された音楽は iPod を破壊するだろうか? アップルは iPhone を発表したばかりだ。iPhone が示しているのはノキアに対して相対的に持続可能な技術(sustaining technology)だ。いいかえれば、アップルは持続可能なカーブ上を(より優れた電話を作ることで)躍進しているのだ。しかし理論的な予測としていえば、アップルの iPhone は成功しないだろう。業界の既存のプレーヤたちが競っている技術革新であり、真に破壊的(disruptive)なものではないのだ。歴史をみれば、[iPhone の]成功の可能性は限定的であることがハッキリしている。

So music on the mobile phone is going to disrupt the iPod? But Apple’s just about to launch the iPhone. The iPhone is a sustaining technology relative to Nokia. In other words, Apple is leaping ahead on the sustaining curve [by building a better phone]. But the prediction of the theory would be that Apple won’t succeed with the iPhone. They’ve launched an innovation that the existing players in the industry are heavily motivated to beat: It’s not [truly] disruptive. History speaks pretty loudly on that, that the probability of success is going to be limited.

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Larissa MacFarquhar の批判

先月 Larissa MacFarquhar が The New Yorker 誌(購読者限定)で Christensen について触れている。なぜ彼が iPhone について間違いを犯したか挿話として簡潔に説明している。

Last month, Larissa MacFarquhar profiled Christensen in The New Yorker (subscribers-only, alas), and in a parenthetical, succinctly explained why he got the iPhone wrong:

その有名な著作『The Innovator’s Dilemma』にも関わらず彼のアドバイスを求めなかった CEO がひとりいた。それが Steve Jobs だったが、幸運なことでもあった。なぜなら iPhone は成功しないというのが Christiansen の最もバツの悪い予測だったからだ。低価格商品に詳しい Christiansen は iPhone のことを豪華な携帯電話と見なしたのだ。iPhone がラップトップにとっても破壊的だと気づいたのは後になってからだった。

One CEO who never asked for his help, despite his admiration for The Innovator’s Dilemma, was Steve Jobs, which was fortunate, because Christiansen’s most embarrassing prediction was that the iPhone would not succeed. Being a low-end guy, Christiansen saw it as a fancy cell phone; it was only later that he realized that it was also disruptive to laptops.

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ポケットサイズのコンピュータ

このことが過去5年にわたってコンピュータ業界と携帯電話業界の双方に起きたことを説明している。iPhone は決して電話ではなかった。電話の持つ困難性をあらかじめ取り除いた(obviates)ポケットサイズのコンピュータだった。iPhone と携帯電話の関係はまさに Mac とタイプライターの関係なのだ。

This explains everything that has happened to both the computer and phone industries over the past five years. The iPhone is not and never was a phone. It is a pocket-sized computer that obviates the phone. The iPhone is to cell phones what the Mac was to typewriters.

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来るべきものへの訓練

かつて 2008 年5月に自分はこう書いたことがある。RIM は当時すでに失敗していたのだ、と。なぜならこの業界の未来はコンピュータを作ることにあり、電話やメッセージ機器を作ることにはなかったからだ。RIM にはハードウェアの面でもソフトウェアの面でも組織としてコンピュータメーカーの経験はなかった。一方アップルは、オリジナル iPhone を発表するまでの10年間を振り返れば、来るべきもの(what was to come) — ポータブルコンピュータ(PowerBook、iBook、MacBook)とポケットに入れて持ち運べるデバイス(iPod)を作るということ — に向けて訓練を重ねてきたのだと見なすことができる。 

I wrote about this back in May 2008, positing that RIM was then already likely screwed because the future of the industry was about making computers, not phones or messaging devices, and RIM had no institutional experience as a computer maker, on either the hardware or software sides of the fence. With Apple, on the other hand, you can more or less look back at the decade preceding the original iPhone as a series of training exercises for what was to come: building portable computers (PowerBooks, iBooks, MacBooks) and pocketable devices (iPods).

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みんなが騙された

iPod の成功は(私を含めて)ほとんどみんなの目を欺いてこう信じ込ませた。アップルの電話市場への参入も同じことだろう — iPod は世界最高のポータブルメディアプレーヤだから、「iPhone」も世界最高の携帯電話だろう、と。

The iPod’s success fooled almost everyone (including me) into thinking that Apple’s entry into the phone market would be similar. The iPod was the world’s best portable media player; the “iPhone”, thus, would likely be the world’s best cell phone.

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「破壊的」という意味

しかし実際はそうではなかった。iPhone は世界最高のポータブルコンピュータだったのだ。最も強力で、最も速く、最も効率的だという意味で最高なのではない。iPhone はコピー&ペースとすら出来なかったが、いつでも手もとにあって、いつでも電源がはいっていて、ボタンを押すだけで可能だという意味で最高だったのだ。ステキな電話を手に入れたということが破壊的(disruption)なのではなく、善かれ悪しかれもうコンピュータやインターネット無しでは済まされないという意味で破壊的なのだ。iPhone の基礎となる技術はアップルの Mac 的側面であり iPod 的側面ではなかった。

But that’s not what it was. It was the world’s best portable computer. Best not in the sense of being the most powerful, or the fastest, or the most-efficient to use. The thing couldn’t even do copy-and-paste. It was the best because it was always there, always on, always just a button-push away. The disruption was not that we now finally had a nice phone; it was that, for better or for worse, we would now never again be without a computer or the Internet. It was the Mac side of Apple, not the iPod side, that set the engineering foundation for the iPhone.

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「アプリ」に過ぎない携帯電話

この5年で起きたこととは、アップルが電話端末業界を破壊したことではなく、むしろコンピュータ業界を破壊することにより端末業界を破壊したことなのだ。いまや携帯電話はデバイスではなくアプリに過ぎない存在だ。iPhone 前に携帯電話を売っていた会社は今や死ぬか死に瀕している。そしてアマゾンやグーグル、さらにはマイクロソフトまで自前のタッチスクリーンを統合したポータブルデバイスを開発し、販売している。「アプリ」はもうありふれたものになってしまったのだ。

What’s happened over the last five years shows not that Apple disrupted the phone handset industry, but rather that Apple destroyed the handset industry — by disrupting the computer industry. Today, cell phones are apps, not devices. The companies that were the most successful at selling cell phones pre-iPhone are now dead or dying. Amazon, Google, and now even Microsoft are designing and selling their own integrated touchscreen portable tablets. “App” is now a household word.

これらはすべて iPhone のせいなのだ。

All of this, because of the iPhone.

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iPhone 誕生5周年を飾るにふさわしい考察だと思う・・・

★ →[原文を見る:Original Text

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《Update》デバイスではなくアプリに過ぎない(7月9日)

Gruber の考察でいちばんショッキングなのは、「いまや携帯電話はデバイスではなくアプリに過ぎない」という点だった。

思い起こせば「iPhone を Android Phone に変えるハッキング」というものがあった。

アプリに過ぎないことを誰にも分かるように視覚化したのはこのときが初めだったのかなあと思う・・・

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