新しい Retina iPad mini の登場に伴い、旧モデルの価格は 299 ドルに引き下げられた。
それをめぐって Benedict Evans[ロンドンのリサーチコンサルタント会社 Enders Analysis のアナリスト]が興味深い指摘をしている。
Benedict Evans: “iPads, price and self-selection” by Benedict Evans: 24 October 2013
* * *
サプライズはなかった
アップルの iPad イベントは予想範囲にとどまりサプライズはなかった。レギュラーサイズの iPad はいずれスピードが速くなり、より軽くなることは分かっていた。またいずれかの時点で iPad mini も Retina 化することは分かっていた。唯一の問題はサプライチェーンが十分なパネルを供給できるかどうか(一部事情通はそうならないといっていたが)、11月後半の出荷日、そして 400 ドルという価格が適正かどうかにかかっていた。
Apple’s iPad event was pretty unsurprising. It was obvious that the large one would be speed-bumped and get lighter. It was also obvious that the Mini would get retina at some point – the only question was whether the supply chain could deliver enough panels now (with some well-informed people suggesting it could not), and the late-November ship date and $400 price point to how close it was.
* * *
指紋認証もなかった
どちらの iPad にも指紋認証が搭載されなかったのは驚きだった。これまたサプライチェーンの問題かもしれない。しかしアップルが念頭におく(モバイルペイメント)プラットフォームは(指紋認証を立ち上げるには)ユーザーベースが小さすぎるということを意味しているのだろう。
The lack of fingerprint scanning in both the new models was a surprise – it may again be a supply problem, but it means that any platform play Apple has in mind (ie payment) will have a smaller install base to launch onto.
* * *
旧モデル Mini が 300 ドルに止(とど)まったナゾ
しかし大きなナゾは、旧モデル Mini が 300 ドルまでしか下がらなかったことだ。これは Retina mini と並ぶ解像度の Nexus 7 の 230 ドルと比べても見劣りがする。グーグル Nexus 7 の販売マージンは非常に低いが、それにしても旧モデル Mini の価格は 275 ドルとか 250 ドルではなく 300 ドルにしか出来なかったのだろうか? アップルはいったい何を考えているのだろう?
However, the big puzzle is the price the now old Mini is discounted to: $300. This compares poorly to a new Nexus 7, with comparable resolution to the retina Mini, at $230. The Nexus 7 is of course being sold at very low margin by Google, but does the old Mini really need to be $300 rather than, say, $275 or $250? What is Apple thinking?
* * *
タブレットの販売予想
単純化していえば、アップルのマーケットシェアは明らかに小さくなっている。冒頭のチャートは今週ベイ・エリアで行なったプレゼンテーションのものだが、私のタブレット販売予想を図示したものだ。(上に行くほど伸び率が大きい。四半期予測のできるデータがない Kindle Fire は含まれていないが、米国外や特定の限られたマーケットではあまり意味がない。)
On a simplistic level, Apple’s tablet market share is clearly shrinking. The chart below, taken from a presentation I’ve been giving in the Bay Area this week, shows my estimates of tablet unit sales. (They’re in increasing order of certainty as you go from top to bottom. Kindle Fire is not included, since I lack the grounds to do quarterly estimates, but obviously it is not relevant outside the USA and a few other markets).
* * *
プライスウインドウ(price window)
最近のアップルの売れ行きが減っているのは、主に製品サイクルの問題によるものだ。だがそれ以外のタブレットの成長は目覚ましい。それなのに未だアップルは iPad の下に安いプライスウインドウ[price umbrella とも:ライバルに参入の余地を残す価格帯]の存在を許している。なぜなのか?
Apple’s recent sales decline is largely a product cycle issue, but clearly, sales of other tablets are growing fast. And yet Apple is allowing the price window underneath the iPad to become meaningful. Why?
* * *
売れない Nexus
このチャートで自分がいちばん興味があるのは、Nexus の売上げが非常に小さいことだ。Nexus はクリーンな Android がインストールされ、非常に意欲的な価格設定になっている。しかしグーグル自身の数字でもほとんど売れていない。どうして? いったいなぜ Nexus 10 の売上げは 100 万台にも達しないのか?
To me, the really interesting thing about this chart is how small Nexus sales are. Here is a good device with a nice clean Android install, sold at a very aggressive price. On Google’s own numbers, almost no-one buys it. Why? Why do sales of the Nexus 10 appear to be under 1m units?
* * *
Nexus 以外の Android タブレットは?
一方どのデータを見ても — インストールされたアプリの数、ウェブでの利用、その他サードパーティの利用数字を見ても — 使われているタブレットの4分の3は iPad だ。Nexus 以外の Android タブレットはいったいどこへ行ってしまったのか? いったいどうなっているのか?
Meanwhile, every single data set shows iPad with at least three quarters of tablet use, be it app installs, web use or any other third-party engagement metric you want. Where are all those other, non-Nexus Android tablets? What’s being done with them?
* * *
いま起きていること
いま起きているのはこういうことだろうと思う。 — アップルやスティーブ・ジョブズが造り出した「ポスト PC ビジョン」を望むのであれば、そんなひとは iPad を買うだろう。そんなマーケットの大部分をアップルが占め、そんな利用目的で iPad が使われることになる。これは驚くにはあたらない。Android のタブレットアプリは、Android の電話アプリと同じような意味で、iPad に大きな遅れをとっているからだ。
What seems to be happening is that if you want the post-PC vision that Apple and Steve Jobs created, you probably buy an iPad, and Apple has a large majority of that market, and hence of the use of devices for that purpose. This isn’t very surprising: the Android tablet app offer remains far behind the iPad in a way that the Android phone app offer does not.
* * *
中国製ノーブランド Android タブレット
一方別な側面もある。ノーブランドの黒い中国製 Android タブレットが Nexus 7 の半額の 75〜150 ドルで売られていることだ。大量に売られているのだが、実際の使われ方は非常に異なっているように見える。
But there’s also another proposition, a $75-$150 black generic Chinese Android tablet, half the price of a Nexus 7. That proposition is also selling in huge numbers, but it appears to come with a very different type of use.
* * *
「タブレットのフィーチャーフォン」
なぜみんなは(ノーブランド Android タブレットを)買うのか? いったい何に使っているのか? これらのタブレットは専ら中国[グラフのいちばん上のピンクの部分]や新興マーケット、西洋低所得者層で売れている。ウェブや無料ゲームにも少しは使われているようだ。読書もいくらかあるかもしれない。しかし大部分はビデオの視聴だ。事実、多くの購買者にとってこれらタブレットはテレビと競合しているのであって、iPad や Nexus、Tab と競合しているのではないと主張することもできるかもしれない。その使われ方がどうであるにせよ、iPad とは異なっているのだ。実際のところ、これらのタブレットは(いわば)「タブレットのフィーチャーフォン」なのだ。
Why are people buying these? What are they being used for? They’re mostly in China (that’s the pink bar above) and emerging markets and in lower income groups in the west. And it seems that they’re being used for a little bit of web, and a bit of free gaming. Perhaps some book reading. And a LOT of video consumption. In fact, one might argue that for many buyers, these compete with TVs, not iPads, Nexuses and Tabs. But regardless of what they’re being used for, they’re not being used the way iPads are used. In effect, they are the featurephones of tablets.
* * *
2つのタブレットマーケット
もしこの仮説が正しいとすれば、iPad は(iPhone と違って)未だ競争上の脅威に晒されておらず、300 ドル Mini に競合問題はないことになる。実際は2つのまったく異なるマーケットが存在するということだ。ひとつはアップルが圧倒的に優勢な「ポスト PC ビジョン」、もうひとつはタブレットの名で呼ばれてはいるがまったく別物の超低マージンの製品という2つのマーケットだ。
If this theory is correct, it suggests that Apple’s $300 Mini really isn’t a competitive problem, because the iPad doesn’t yet face a strong competitive threat (quite unlike the iPhone). Rather, there are actually two quite different markets: the post-PC vision, where Apple is dominant, and a ultra-low margin product that’s also called a tablet but which is really a totally different product.
* * *
タブレットにもフィーチャーフォンがあると見立てたところが眼目だ。
タブレットのマーケットシェアを論じるときに見落としてはならない視点だろう・・・
★ →[原文を見る:Original Text]
この記事の見立ては面白いですね。つまり格安tabはビデオウォークマンということですか。それは確かに成立するかもしれない。
>しかし大きなナゾは、旧モデル Mini が 300 ドルまでしか下がらなかったことだ。これは Retina mini と並ぶ解像度の Nexus 7 の 230 ドルと比べても見劣りがする
たった70ドルの差ならiPad一択でしょ
一般人はスペックオタクじゃないし、スペックなんかより豊富なコンテンツの方が断然大事
スマホアプリを引き延ばすのがいいならAndroidタブレットでもいいんだろうけど(笑)
Appleのブランディングは、相当考えられていそうです。コンシュマー・レベルに擦り寄るマーケティングはJobsが言ってきたとおりAppleのやることではないのですが、データから割り出すターゲットの定め方は、相当研究しているはずだと思います。勝算あり、という判断なんでしょうね。最も、マジョリティーを取れというアナリストの要望ははぐらかすと思いますけど、それでいいんです。二番じゃダメですか(笑)? いーんです!Jobs の遺言は”Do the right thing” らしいですから。
非常に的を射た分析だと思います。
自分は現在の市場は「iPad市場」で有って「タブレット市場」では無いと認識しています。
Androidタブレットは良く言われる通り、「デカいスマホ」でしかないからです。
同様にiPadの事を「デカいiPhone、touch」と形容する人がいますが、明らかに間違っています。多分、Googleも誤解していると考えます。
タブレットのUIはスマートフォンと同じ設計すると確実に利便性が失われる。
だから引き伸ばしただけのアプリは大画面のメリットを活かせない。
現在の普及度の差はそこに有る。タブレットに関しては今後数年間はこの圧倒的な差は縮まらないでしょう。
GoogleはNexus7で致命的な失策をした。価格を押し下げ過ぎ、Androidタブレットの未来の芽を摘んでしまった。
低価格なAndroidタブレット。その印象を植え付けてしまった。
これではスマートフォンで行われている様なスペック競争を行えない。ノンブランドで安価なもので十分と考える層にしか売れない。
なのでiPadを求める層には全く訴求する事が出来ない。だから現時点で「安価」をウリにするのはAppleとしては下策中の下策。
今回のiPadは非常に魅力的。A7をiPhoneも含めて共通化する事でコストダウンも約束されている。
ここまでのAppleの施策は完璧だと感じます。
ただ、次がどうなるのか。iPhone、iPadの次は何なのか。それは少し不安を感じ始めています。
iOS7のフォルダUIはどう見てもiPadの利点を完全無視したデザインんですよね。
UIガイドラインを見てみると、iOS7に関しては解像度・画角に依存しないUI設計を推奨しているように思えます。
現に、iPad版アプリでも引き伸ばしただけのUIのアプリはたくさん存在しています。
iOS7の設計全般をみた感じ、秩序や整合性という免罪符的提唱により、あれ程Android群を罵倒してきたフラグメンテーションや、最適化UIではなく各々の利便性を無視した共通UIがiOSにも訪れるような悪い予感がしてきてならないのは私だけでしょうか。
[…] – GIGAZINE iPad mini の旧モデルが 300 ドルに止まったナゾ | maclalala2 APPLE CaPSULE – OS X 10.9 […]